聖アンナのいる聖家族

ピーテル・パウル・ルーベンス「聖アンナのいる聖家族」

ピーテル・パウル・ルーベンスは、バロック期フランドルを代表する巨匠の一人です。彼の描いた「聖アンナのいる聖家族」は、聖家族の親密な情愛を描いた油彩作品として知られています。制作は1630年頃とされ、注文主や制作経緯は不明です。この作品は、後にスペイン王宮のディエゴ・ベラスケスによってエル・エスコリアル修道院の装飾として選ばれ、現在はマドリードのプラド美術館に所蔵されています。

作品の詳細

ルーベンスは生涯にわたり、聖家族をテーマとした作品を多く制作しました。本作もその一つであり、彼自身の聖母マリアへの深い崇敬の念が込められていると考えられています。描かれているのは、椅子に座る聖母マリアと、その膝の上に立つ幼いイエス・キリスト、そして二人を優しく見守る聖アンナと聖ヨセフです。

マリアは幼いイエスをしっかりと抱きかかえ、その小さな足に触れることで、母としての愛情を表現しています。イエスは、マリアの首に手を回し、もう片方の手を乳房に置くことで、母への甘えを表しています。イエスは天を見つめ、マリアはイエスの未来を見据えているかのようです。

聖アンナは、二人の後ろで両腕を広げて抱擁するように見守り、イエスに優しい視線を向けています。一方、聖ヨセフは、椅子の背もたれに肘をつき、顎に手を当て、イエスの方を見ています。ヨセフの控えめな描写は、中世以前からのキリスト教美術の伝統に則っています。しかし、白髪の老人ではなく、壮年期の男性として描かれている点は、対抗宗教改革期にテレサ・デ・アビラが推し進めたヨセフ崇敬の影響が見られます。

本作には、伝統的な聖家族図に見られる、イエスの受難を暗示する要素は見られません。その代わりに、人物たちの近さや触れ合いによって、家族の自然な愛情を強調しています。聖家族は、古代風の建築物の中に描かれ、暗い背景によってその姿が浮かび上がっています。ほぼ等身大で描かれた人物たちは、鑑賞者との距離が近く、直接的に信仰心を高める効果を生み出しています。これは対抗宗教改革期のキリスト教美術に典型的な特徴です。

本作は非常に好評を博し、複数の複製やヴァリアントが制作されました。これは、この作品の構図が多くの人に受け入れられたことを示しています。

作品が示すもの

「聖アンナのいる聖家族」は、ルーベンスの宗教観と、家族の絆の深さを描いた作品です。聖母マリアへの崇敬と、聖家族への愛情が、彼の筆を通して見事に表現されています。この作品は、単なる宗教画としてではなく、人間の普遍的な感情を描いた芸術作品として、現代の私たちにも深い感動を与えてくれます。

参考文献

• - プラド美術館展　ベラスケスと絵画の栄光、国立西洋美術館、プラド美術館、読売新聞社、日本テレビ放送網、BS日本テレ、2018年刊行 ISBN 978-4-907442-21-7

外部リンク

• - プラド美術館公式サイト、ピーテル・パウル・ルーベンス『聖アンナのいる聖家族』 （英語）

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