聖イルデフォンソ祭壇画

『聖イルデフォンソ祭壇画』は、バロック期フランドルの巨匠ピーテル・パウル・ルーベンスが、1630年から1632年にかけて制作した油彩の三連祭壇画です。オーク板に描かれたこの作品は、中央パネルが縦352センチ、横236センチ、左右両翼パネルがそれぞれ縦352センチ、横109センチという壮大なサイズを誇ります。元々は外側に『リンゴの木の下の聖家族』が描かれていましたが、後に切り離され独立した作品となりました。両作品とも1777年にマリア・テレジアによって購入され、現在はウィーンの美術史美術館に展示されています。

この祭壇画は、スペイン領ネーデルラント総督アルブレヒト・フォン・エスターライヒが、ハプスブルク家への忠誠を促すためにブリュッセルに創設したイルデフォンソ兄弟団のために委嘱されました。アルブレヒトの死後、寡婦イサベル・クララ・エウヘニアによって兄弟団礼拝堂のために制作されました。7世紀のトレド大司教、聖イルデフォンソは、聖母マリアの処女懐胎を否定する異端者たちを論破した人物として知られています。作品の名称はこの聖イルデフォンソに由来しており、中央パネルには彼が見た幻視が描かれています。幻視の中で、聖イルデフォンソは、大勢の聖人を従えて現れた聖母マリアから、感謝の印としてカズラ（祭服）を授けられています。

左右両翼パネルには、この奇跡の目撃者として、ネーデルラント総督夫妻のアルブレヒト・フォン・エスターライヒ（左翼パネル）とイサベル・クララ・エウヘニア（右翼パネル）が描かれています。夫妻はそれぞれ、自分と同じ名前の守護聖人、ルーヴェンのアルベルトとエルジェーベト（ハンガリー王女）を伴っています。ルーベンスは中央パネルの構図に、ラファエロの『教令集を承認する教皇グレゴリウス9世』を参考にしました。また、中央パネル左端の聖女のポーズは、古代ローマ彫刻『貞淑像』から着想を得ています。

当時、三連祭壇画は、より近代的な建築的枠組みを持つ一枚の絵画の祭壇画に取って代わられつつありました。ルーベンスはイタリア的な新形式の導入者でしたが、本作ではあえて伝統的な三連祭壇画形式を採用しました。これは、兄弟団の創設者、祭壇画の寄進者、そしてルーベンスが敬愛したアルブレヒト大公夫妻の肖像を収めるためだったと考えられます。アルブレヒト大公は作品制作当時すでに亡くなっており、完成の翌年には、寡婦イサベルも世を去りました。この作品は、その歴史的背景とルーベンスの卓越した技術が融合した、バロック美術の傑作として高く評価されています。

ギャラリー

脚注

参考文献

山崎正和・高橋裕子『カンヴァス世界の大画家13　ルーベンス』、中央公論社、1982年刊行　ISBN 978-4-12-401903-2
『ウイーン美術史美術館 絵画』、スカラ・ブックス、1997年　ISBN 3-406-42177-6

外部リンク

* 美術史美術館公式サイト、ピーテル・パウル・ルーベンス『聖イルデフォンソ祭壇画』 (英語)

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