聖ゲオルギウスと竜 (ギュスターヴ・モロー)

『聖ゲオルギウスと竜』

ギュスターヴ・モローが1889年に制作した『聖ゲオルギウスと竜』は、フランス象徴主義を代表する作品の一つです。この絵画は、聖ゲオルギウスの伝説を描いており、主にヤコブス・デ・ウォラギネの『黄金伝説』に基づいています。この作品は、ロンドンのナショナルギャラリーとパリのギュスターヴ・モロー美術館に所蔵されています。

聖ゲオルギウスの伝説

『黄金伝説』において、聖ゲオルギウスは勇敢な騎士であり、ドラゴンに立ち向かう姿が描かれています。ドラゴンはシレーヌの王女を生贄として捧げるために捕らえられており、聖ゲオルギウスは彼女を救うために戦うことになります。彼はドラゴンを槍で打ち破り、王女を救出します。その後、彼は王女にドラゴンを連れて行かせ、町の人々に恐怖を与え、キリスト教に改宗させたと言われています。

絵画の詳細

モローの作品には、聖ゲオルギウスが黒い甲冑を装い、赤いマントを靡かせながら白馬に騎乗し、ドラゴンに立ち向かう姿が力強く描写されています。白馬は美しい宝石で装飾され、前脚を跳ね上げる様子はまるで空を飛ぶように見えます。ドラゴンは槍によって胸を突かれ、大量の血を流し、その背景には深い渓谷が広がっています。画面の右側には、金のドレスをまとった王女が祈りを捧げる姿が描かれた岩場があり、そのさらに奥にはシレーヌの城がそびえています。

この作品が完成したのは1889年ですが、制作自体はそれ以前から行われていた可能性が高く、モローは数年にわたりこのテーマを探求してきたことが示されています。特にモローのイタリア旅行（1857年から1859年）の経験が、彼の作品に強い影響を与えています。この時期に彼はビザンティン美術やルネッサンスの作品からインスピレーションを得ており、ヴェネツィアでカルパッチョの『聖ゲオルギウスと竜』を模写しています。

モローの作品は、彼の幅広い資料に対する関心を反映しています。作品の構成は、ラファエロ・サンツィオの『聖ゲオルギウスと竜』を意識したものですが、その他にも後期ゴシックの影響が伺えます。特に、聖ゲオルギウスの光輪や王女の王冠にはその特徴が見られ、これにより聖なる存在としての彼の姿が強調されています。彼は戦士として描かれていますが、細身で長髪の若者として表現され、聖人の両性具有的な側面が強調されています。これにより、モローにとって聖ゲオルギウスは野生的な本能を克服する精神的な象徴となっているのかもしれません。

収蔵と収集の歴史

この絵画は、マルセイユの船主で美術コレクターであるルイ・マンテによってモローから購入されました。当初、彼は9,000フランという高額でこの作品を手に入れ、その後1976年にはナショナル・ギャラリーに収蔵されることになりました。

モローによる1869年の水彩画版も存在し、この作品はおそらく油彩画の制作直前に描かれたものです。両者は構図において共通点が多いものの、油彩版にはいくつかの改良点が含まれています。

作品の持つ意義

『聖ゲオルギウスと竜』は、モローにとって重要な作品であり、イタリア美術への関心を高めただけでなく、彼が探求する神話や宗教のテーマへの深い理解を反映しています。

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