聖パトリック大聖堂 (ダブリン)

ダブリン聖パトリック大聖堂：歴史と建築、そして人々の信仰の軌跡

ダブリン聖パトリック大聖堂は、アイルランドの首都ダブリンに位置する、歴史と伝統に彩られた壮麗な聖堂です。正式名称は「聖パトリックの国立大聖堂およびカレッジチャーチ」で、アイルランド聖公会の大聖堂として、アイルランド島最大の教会堂として知られています。もう一つのダブリンの大聖堂であるクライストチャーチ大聖堂と比較しても、その規模と歴史的意義は際立っています。

12世紀からの歴史：創設と発展

聖パトリック大聖堂の歴史は、1191年（もしくは1192年）に遡ります。イングランド人のダブリン大主教ジョン・カミンが、ケルト系の教区教会をカレッジスクール（聖堂参事会によって管理される教会）に格上げすることで、聖パトリック大聖堂の礎を築きました。聖パトリックに捧げられたこの教会は、聖泉の近くに位置し、ポドル川の支流に挟まれた地に建設されました。

当初は、学問と信仰の両面を重視した聖職者養成機関としての役割も担っていました。カミンの設立認可状は教皇ケレスティヌス3世によって承認され、聖堂参事会が設立されました。その後、大聖堂は徐々に規模を拡大し、大司教座である聖墓宮殿を含む広大な複合施設へと発展していきました。

正確な時期は不明ですが、大聖堂への昇格は1192年以降に行われたと推測されます。1212年には、当時の大主教ヘンリーがクライストチャーチと聖パトリック両方の聖堂参事会によって選出されたという特異な事例も記録されています。この選出は教皇インノケンティウス3世によって承認されました。

現在の聖堂の基礎となる建築物は、1191年から1270年の間に建設されましたが、それ以前の建物の遺構はほとんど残っていません。1225年にはヘンリー3世の命令により、改築のための寄付金が集められ、初期イングランド・ゴシック様式の建設が続きました。1270年頃にはレディーチャペルが追加されました。

1300年には、ダブリン大司教フェリングスが、ダブリンに2つ存在する大聖堂（クライストチャーチと聖パトリック）の統合を図る協定を締結しました。これは、両大聖堂が権限を共有するという独特の状況に対処するための試みでした。

中世から近代：宗教改革、修復、そして国立大聖堂へ

1300年代半ばから500年間、聖パトリック大聖堂の北側翼廊は、聖ニコラス教区教会として使用されていました。火災による損壊の後、塔（マイノットの塔）と西身廊は1362年から1370年の間に再建されました。

イングランドの宗教改革の影響を受け、聖パトリック大聖堂はアイルランド国教会の大聖堂となりました。しかし、この時代には、建物への損壊や管理の不備、そして一時的な抑圧なども経験しています。

16世紀には、宗教改革による混乱、そしてオリバー・クロムウェルのアイルランド侵攻による損害などもありました。しかしながら、修復作業も継続して行われ、17世紀にはユグノー難民にレディーチャペルが提供されるなど、多様な歴史を刻んでいます。

18世紀には、有名な作家ジョナサン・スウィフトが聖パトリック大聖堂の首席司祭を務めました。スウィフトは、ガリバー旅行記の著者としても知られており、その説教や政治的な著作は、彼が首席司祭を務めていた期間に書かれています。彼の墓は、大聖堂内にあります。

19世紀には、大規模な修復が行われました。これは、建物の崩壊の危機を回避するための緊急の措置でした。ベンジャミン・ギネスからの多大な寄付によって、ヴィクトリア朝様式の修復が行われ、現在の建物の多くは、この時代のものです。

1871年にアイルランド国教会が廃止されたことに伴い、クライストチャーチ大聖堂がダブリン主教区の単一の大聖堂となり、聖パトリック大聖堂は国立大聖堂となりました。これは、長年続いてきた「二つの大聖堂」問題の解決を意味しました。

現代：国立大聖堂としての役割

現在、聖パトリック大聖堂は、アイルランドの重要な国家的行事の開催地として、そしてアイルランド聖公会の中心的な聖堂として、重要な役割を果たしています。毎年11月に行われる英霊記念日式典や、12月の聖歌奉仕などは、その象徴的な行事です。

また、ダグラス・ハイドやアースキン・ハミルトン・チルダースといったアイルランド大統領の葬儀も、ここで執り行われました。

聖堂参事会と要職

聖パトリック大聖堂は、首席司祭と聖堂参事会によって運営されています。聖堂参事会は、1191年に設立され、現在は28名（以前は13名）のメンバーで構成されています。そのメンバーは、アイルランド国教会全体を代表しており、さまざまな役職と責任を担っています。

まとめ

ダブリン聖パトリック大聖堂は、その800年を超える歴史の中で、数々の出来事を経てきました。宗教改革、戦争、そして社会変革の波の中、聖堂は常に信仰の中心として、そしてアイルランド社会に重要な貢献をしてきました。現在も、歴史的建造物、そして宗教的・文化的中心地として、多くの人々を魅了し続けています。その壮麗な建築、そして歴史的な意義は、訪れる人々に深い感銘を与えるでしょう。

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