肉吸い (妖怪)

肉吸い（にくすい）

肉吸いは、日本の妖怪の一つとして、主に三重県熊野市の山中や和歌山県の果無山に伝えられています。この妖怪は特に人間に近づき、その肉を吸い取る恐ろしい存在とされています。

妖怪の特徴

肉吸いは、特に夜になると活動を始めるとされます。暗い夜道を提灯を持って歩く人間に接近し、おおよそ18歳から19歳の美しい女性の姿を装います。その際、「火を貸してくれませんか？」と声をかけ、提灯を取り上げるのです。相手が提灯を失った瞬間に、暗がりの中でその人間に襲いかかり、肉を吸い取るとされるため、地元の人々は夜道を歩く際、火の気を持つことが非常に重要だと考えています。

夜道の危険

この地域では、夜道を照らすための提灯や火種を必ず持参し、肉吸いに提灯を奪われた場合には、火種を振り回して妖怪を追い払うしきたりがありました。実際に、南方熊楠の『南方随筆』には、1893年に郵便脚夫が肉吸いに遭遇し、事前に用意していた火縄を使ってその妖怪を退散させたという実話が記されています。

伝承と証言

また、奈良県十津川地方の郵便脚夫によると、猟師の源蔵が果無山で猟をしている際、狼に襲われ、その時現れた18、19歳の女性が火を借りようと近づいてきました。この狼と美しい女性の組み合わせに腑に落ちない気持ちでいた源蔵は、「南無阿弥陀仏」と彫られた銃弾を準備しようとしたところ、女性は何事もなく立ち去りました。しかし後に、源蔵が見たものは身の丈が2丈もある正体不明の怪物だったため、すぐに銃を構え、その怪物を仕留めると、驚くべきことにそれは白骨だけの存在だったというのです。このエピソードもまた、肉吸いの恐ろしさを物語っています。

江戸時代の描写

江戸時代に描かれた黄表紙『百鬼夜講化物語』には、山中だけではなく、屋内で男性に寄り添う姿が描かれています。ここでは、男性と交わることでその精気を吸い取る存在として描かれており、また、男性が腎虚になりそうな美しい女性を妖怪に例えた作品とも解釈されています。

稀有な存在

南方熊楠は、肉吸いが非常に特異な妖怪であり、他の国の妖怪には類似する者がいない点を指摘しています。このため、肉吸いは日本の妖怪文学や伝説において、特に重要な位置を占めています。

まとめ

肉吸いは、ただの妖怪にとどまらず、地域の文化や人々の生活に深く根付いた存在であり、その伝説は今なお語り継がれています。夜の闇に潜む肉吸いの恐怖は、現代においても忘れ去られることはないでしょう。

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