肝 (五臓)

伝統中国医学（中医学）における「肝」は、五臓の一つであり、現代医学でいう肝臓とほぼ同じ位置、つまり軀幹の中央部に存在すると考えられています。しかし、その機能は現代医学の肝臓とは大きく異なり、中医学では単なる臓器としてだけでなく、生命活動を維持する上で非常に重要な役割を担っていると捉えられています。

血を宿す場所、肝

中医学において肝は「血を宿すところ」とされ、血の貯蔵庫としての役割を持ちます。その形状は、お椀を伏せたような形をしており、上部は太い脈で心臓と繋がっています。心臓から送られた血液は、肝臓内で葉脈状に分枝し、その先で蓄えられると考えられています。心臓が全身に気血を配分する王様や首相のような役割を担うのに対し、肝臓はそれを管理する宰相や大蔵大臣のような役割を担っていると言えるでしょう。

精神・感情を司る肝

肝は単に血液を貯蔵するだけでなく、精神作用にも深く関わっています。人の性格や感情を司る「魂」が宿るとされ、根気や意志、想像力に影響を与えます。肝が充実している人は、何事にも積極的で物怖じせず、仕事ができる傾向があります。逆に、肝に問題があると、持久力がなく、些細なことに動揺しやすく、優柔不断で怒りっぽくなることがあるとされています。

筋肉と眼との関係

また、肝は筋肉とも密接な関係があります。肝が充実していないと、体を思うように動かすことができません。さらに、肝は眼に開くとされ、肝が衰えてくると、白目が黄色っぽくなり、黒目も潤みがちになると言われています。

五行思想と肝

肝は五行思想においては「木」に属し、胆と表裏の関係にあります。体の中央に位置し、性格や感情を左右することから、「肝胆」のつく慣用句が多いのも特徴です。

「肝胆」がつく慣用句の例

肝胆相照らす: お互いの心の底まで理解し合い、親密な関係にあること。
肝胆寒し: 非常に驚くこと。「驚」は肝が司るとされることに由来します。

このように、中医学における肝は、単なる臓器としての機能だけでなく、精神や感情、身体の様々な機能に深く関わる重要な存在として捉えられています。

もう一度検索