脇田隆字

脇田隆字は、日本の著名な医師であり、ウイルス学者である。1958年に愛知県名古屋市に生まれた彼は、医学研究と国家的な感染症対策の両面で重要な役割を担ってきた人物である。名古屋大学医学部を卒業後、臨床経験を経て同大学院で医学博士号を取得。その後、国内外の第一線の研究機関で研鑽を積んだ。現在は、2025年に設立される国立健康危機管理研究機構で副理事長を務めることが決定しており、さらに日本ウイルス学会の理事長も兼任するなど、日本の感染症研究と対策を牽引する要職にある。

脇田氏の科学者としてのキャリアにおいて、最も特筆すべき業績の一つが、C型肝炎ウイルス（HCV）に関する画期的な研究である。当時、HCVは遺伝子の複製能力が限定的であったため、生きた細胞の外で安定的に培養・増殖させることが極めて困難だった。この技術的な壁が、ウイルスの詳細な性質解明や、感染予防のためのワクチン開発を阻む大きな要因となっていた。このような状況下で、脇田氏は世界で初めて、培養細胞を用いて感染性を保持したままHCV粒子を作り出すことに成功した。この偉業は、HCVのライフサイクル、病原性のメカニズム、そして宿主との相互作用を分子レベルで解析することを可能にし、その後の効果的な抗ウイルス薬の開発や、待ち望まれていたワクチン開発に向けた研究に道を拓いた。彼のこの研究成果は、HCV研究分野におけるマイルストーンとして国際的に高く評価されている。

2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症（COVID-19）の世界的パンデミックにおいては、脇田氏は日本の対策において中心的な指導者の一人となった。政府が設置した新型コロナウイルス感染症対策専門家会議では座長を務め、刻々と変化する感染状況を科学的に分析し、感染拡大防止策や医療提供体制に関する重要な提言を政府に行った。専門家会議の役割を終えた後も、厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの座長や、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の会長代理を務めるなど、一貫して政策決定の場において専門家としての見地から政府への助言を継続した。未知のウイルスに対する初期対応から、感染拡大の波に応じた対策の見直しに至るまで、彼の専門知識と豊富な経験は、国の危機管理体制を支える上で不可欠なものだった。

彼の経歴は、基礎研究から公衆衛生、政策提言まで多岐にわたる。1983年に名古屋大学医学部を卒業後、臨床医として経験を積んだ。1992年に同大学院医学研究科博士課程を修了し、医学博士号を取得。その後、米国ハーバード大学医学部およびマサチューセッツ総合病院癌センターで客員研究員として国際的な研究活動を行った。帰国後は、東京都臨床医学総合研究所や東京都神経科学総合研究所（現在の東京都医学総合研究所の一部）で主任研究員を務め、ウイルス学の研究に深く携わった。2006年からは国立感染症研究所に移り、ウイルス第二部長として研究部門を率いた。長年の研究と実績が認められ、2018年には国立感染症研究所の所長に就任し、日本の感染症研究における最重要機関のリーダーを務めた。この所長在任中に新型コロナウイルスのパンデミックに直面し、国の中枢での対策に関わることとなった。2022年には日本ウイルス学会の理事長に就任し、学術振興にも尽力している。そして、2025年には日本の健康危機管理体制の強化を目指して設立される国立健康危機管理研究機構の副理事長に就任予定であり、新たな体制構築と運営において重要な役割を担うこととなる。

脇田氏の研究業績は国内外で高く評価されており、特にC型肝炎ウイルスに関する先駆的な研究は、2008年に第52回野口英世記念医学賞を受賞というかたちで顕彰されている。彼の功績は、基礎ウイルス学の進歩に貢献しただけでなく、公衆衛生上の喫緊の課題であったC型肝炎対策、そして近年の新型コロナウイルス対策においても、多大な影響を与えている。

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