自画像 (デューラー、1498年)

アルブレヒト・デューラーの『自画像』は、1498年に制作された油彩画であり、彼の26歳の姿を描いています。この作品は、デューラーが描いた数点の自画像の中でも、油彩画としては初期の重要な作品の一つです。デューラーは、この作品の2年前にも自画像を描いていますが、本作はより成熟した画家の自己像を示しています。さらに2年後には、28歳の自画像も制作しており、彼の自己への関心の高さがうかがえます。

この自画像は、元々ニュルンベルク市庁舎に所蔵されていましたが、17世紀にイングランドのチャールズ1世に贈られました。その後、チャールズ1世の処刑により売却され、スペインの大使によって購入され、スペイン王室コレクションを経て、現在はプラド美術館に所蔵されています。この歴史は、作品の評価の高さと、所有者の変遷を物語っています。

デューラーは、自身の容姿を非常に意識していた画家として知られています。この自画像が描かれた1498年は、デューラーが木版画連作『黙示録』を制作し、ヨーロッパ全土で名声を確立した年でもあります。自画像では、画家らしからぬ貴族的な服装で描かれており、イタリアの影響を受けた高価な衣服や革手袋を身に着け、優雅な印象を与えます。これは、ルネサンス期のイタリアにおいて、画家が職人の地位から知識階級、さらには宮廷人にまで昇格していた社会状況を反映しています。

この作品では、顔と絵を描く手が焦点となっています。これは、デューラーが画家の社会的地位を「芸術家」として高め、絵画を「自由学芸」の地位に引き上げようとする意図を表しています。画面からは、芸術家としてのデューラーの自負心、自信、余裕が感じられます。右側の窓枠の下には、署名が堂々と記されています。この作品は、画業という天職の「高貴さ」を、西洋絵画史上で初めて明確に視覚化したものとして評価されています。

背景には、部屋の一隅と窓から見える風景が描かれています。これは、デューラーの他の作品にも見られる構図であり、初期フランドル派絵画の影響を示唆しています。雪に覆われた山々の風景は、デューラーが1490年から1495年の間に経験したイタリア旅行の記憶を反映している可能性があります。

デューラーの自画像は、単なる肖像画にとどまらず、当時の社会状況や画家の意識、芸術に対する考え方を映し出す貴重な作品と言えるでしょう。

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