自画像 (ルーベンス、ウィーン)

ピーテル・パウル・ルーベンスの自画像

ピーテル・パウル・ルーベンスによる『自画像』は、1638年から1639年にかけて制作された油彩画で、画家の数少ない自画像の一つとして知られています。この作品は、ルーベンスが62歳頃の姿を描いたもので、彼の晩年の境遇と内面を映し出す重要な作品です。画面左側の円柱には「P. P. RUBINS」と署名がされており、彼の作品であることを示しています。

この自画像は、ルーベンスが宮廷人としての義務から解放され、アントウェルペンやステーンの城館で貴族のように生活していた時期に描かれました。彼は宮廷生活と距離を置きつつも、騎士の勲位を受けた自身の地位を意識し、それを自画像に反映させました。この作品は、自己の内省や表情の研究ではなく、何らかの外的要因や記念の意味合いで制作されたと考えられます。ルーベンスは常に紳士としての威厳を保ち、公式な肖像画として自らを表現しました。

本作は、ルーベンスが胸像ではなく膝上上半身像で描いた唯一の自画像です。彼は、マントを羽織り、左手を剣の上に置いて鑑賞者を見つめています。鍔の広い帽子を被り、宮廷肖像画の伝統的な要素である剣、手袋、柱を組み合わせています。この形式は、ティツィアーノに起源を持ち、ルーベンスの弟子であるアンソニー・ヴァン・ダイクがイギリスでさらに発展させました。

この自画像は、一般的な宮廷肖像画よりも顔の細部に焦点を当てて描かれています。ルーベンスの肖像画は類型的な表現であると指摘されることもありますが、この作品では老齢による疲労感や痛風の苦痛など、彼の個人的な側面が強く表れています。ルーベンスの人間性が垣間見える貴重な作品と言えるでしょう。

なお、ルーヴル美術館には、この自画像の準備素描が所蔵されており、身体の姿勢や衣の襞の配置が詳細に研究されていたことがわかります。この素描は、ルーベンスが自画像を制作するにあたって、綿密な準備を行っていたことを示しています。

この作品は、1691年にはフアン・ガスパール・エンリケス・アロンソ・デ・カブレラのコレクションにありましたが、1720年にはウィーンの皇室コレクションに収蔵されました。現在ではウィーンの美術史美術館に所蔵されており、ルーベンスの作品の中でも特に重要な位置を占めています。

この自画像は、ルーベンスの卓越した技術と、彼自身の内面を深く探求した作品として、美術史における重要な位置を占めています。彼の晩年の境遇と、芸術家としての誇りが込められたこの作品は、見る者に強い印象を与えます。

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