苗代田停留場

苗代田停留場

苗代田停留場（なわしろだていりゅうじょう）は、かつて大阪府大阪市阿倍野区に設けられていた、南海電気鉄道平野線の駅、すなわち電停でした。平野線は、大阪市南部の今池から平野を結ぶ重要な軌道線として機能していましたが、都市交通の変化に伴い、1980年11月28日に全線が廃止されました。苗代田停留場も、この平野線の廃止と運命を共にし、その役目を終えました。

構造と配置

この停留場は地上に設置されており、他の一般的な駅のようにホームが線路を挟んで向かい合う形ではなく、「千鳥式ホーム」という配置を採用していました。これは、上りホームと下りホームが互いに少しずれた位置に設けられる方式です。苗代田停留場の場合は、特に庚申街道と交差する踏切を境界として、ホームが東西に分かれて配置されていた点が特徴的でした。

西側ホーム: 庚申街道の踏切より西側に位置しており、平野方面へ向かう下り列車が停車するホームでした。
東側ホーム: 庚申街道の踏切より東側に位置しており、阿倍野・今池方面へ向かう上り列車が停車するホームでした。

これにより、利用者は乗車する電車の行先を確認し、適切な側のホームで待つ必要がありました。

周辺環境と運行の様子

苗代田停留場の周辺には、特に文ノ里停留場方面から続いてくる区間に、なだらかな上り勾配が存在していました。この勾配は、平野線の中間駅間の勾配としては比較的きつい部類に入るとされていました。そのため、特に朝の通勤・通学ラッシュ時には、多くの乗客を乗せて重量が増した電車が、この坂道を上る際には速度が鈍り、車両が軋むような音を立てながらゆっくりと進んでいく様子が見られました。この光景は、当時の停留場の日常における一つの特徴的な光景でした。

現在、苗代田停留場があった場所には、かつての線路やホーム、架線柱など、鉄道施設そのものの痕跡は全く残されていません。しかし、かつての庚申街道の踏切のすぐ東側に位置する一軒の喫茶店は、電停が存在していた当時の建物に近い形状で現在も営業しており、この場所にかつて電車が止まっていたことを静かに物語る数少ない手がかりの一つとなっています。

歴史

苗代田停留場の歴史は、大正時代まで遡ります。

1914年（大正3年）4月26日: 当時「平野支線」として運営されていた、旧・阪堺電気軌道による今池～平野間の開業と同時に、苗代田停留場も旅客営業を開始しました。
1980年（昭和55年）11月28日: 南海電気鉄道平野線が全線廃止されたことに伴い、開業から約66年半にわたる歴史に幕を閉じ、廃止されました。

駅名の由来

「苗代田」という停留場名は、この地域にかつて存在していた旧地名に由来しています。昭和初期頃まで実際に使われていた地名が、そのまま停留場の名称として引き継がれたものと考えられています。

周辺施設

停留場が機能していた当時、周辺には地域住民や停留場利用者が利用するいくつかの施設が存在していました。

苗代田郵便局
大阪市立苗代小学校
大阪市立常盤小学校
辻調理師専門学校

これらの施設は、停留場が地域の交通拠点として機能する上で重要な役割を果たしていました。

隣接停留場

南海電気鉄道平野線における苗代田停留場の両隣の停留場は以下の通りでした。

阿倍野停留場: 阿倍野・今池方面の隣駅でした。
文ノ里停留場: 平野方面の隣駅でした。

これらの隣接停留場も、平野線の廃止と共に廃止されています。

結び

苗代田停留場は、南海電気鉄道平野線の一部として、約半世紀にわたり地域の交通を支え、多くの人々の通勤・通学や日常の移動に利用されてきました。庚申街道の踏切を挟んだ特徴的なホーム構造や、文ノ里方面からの勾配を上る電車の姿は、当時の利用者の記憶に残るものであったでしょう。路線廃止から長い年月が経過し、その痕跡はほとんど失われてしまいましたが、かつてこの場所に確かに存在し、地域の生活を支えていた電停の歴史は、今も人々の記憶の中に語り継がれています。

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