若倉雅登

若倉 雅登（わかくら まさと）

日本の医学者であり、眼科医として長年にわたり医療現場で活躍してきた人物です。1949年7月28日、文芸評論家として知られる進藤純孝氏を父に持ち、東京の地で生を受けました。

経歴

若倉雅登氏は、東京都立戸山高等学校で学び、1968年に卒業。その後、北里大学医学部へと進み、1976年に医学の道を歩み始めました。同大学の大学院医学研究科博士課程を修了した1980年には、「ネコ視神経切断により網膜および視神経変化の形態学的研究」で医学博士の学位を取得しています。大学卒業後は北里大学眼科で研鑽を積み、1982年に専任講師に就任。1986年にはイギリスのグラスゴー大学にてシニア研究員として海外での研究経験も積みました。帰国後、再び北里大学眼科の専任講師、そして1991年には医学部助教授を務めるなど、教育・研究者としても功績を残しています。

1999年からは、日本でも有数の歴史を持つ眼科専門病院、井上眼科病院へと移籍し、副院長に就任。2002年には同院の第十代院長を務め、病院運営の中心を担いました。2012年4月からは名誉院長の称号を得て、現在は後進の指導や研究、啓発活動などに重点を置いています。また、井上眼科病院での活動に加え、北里大学の客員教授や東京大学の非常勤講師としても教鞭を執り、多くの学生や医師たちの育成に貢献しています。

専門分野と活動

若倉氏の専門は、眼と脳、そして心の繋がりを探求する神経眼科および心療眼科です。特に、視神経や眼の位置、眼球の動きに異常が生じる疾患（視神経炎、レーベル病、甲状腺眼症など）の診断と治療において深い知見を持っています。また、まぶたのけいれん（眼瞼けいれん）や顔面の片側のけいれん（片側顔面痙攣）の治療、さらには抑うつなどの心の状態が目に不調を引き起こすケース、化学物質過敏症といった幅広い疾患に対応しています。

「眼は体と心のバロメーターである」という信念のもと、単に目の症状だけでなく、患者の全身状態や精神的な側面にも深く配慮したホリスティックな診療を実践しています。特に、日本ではまだ一般的に知られていなかった心療眼科という分野の発展にも貢献しており、そのパイオニアの一人と言えます。

学会活動にも積極的で、日本神経眼科学会の理事長を務めたほか、日本眼科学会の評議員、海外の専門誌である『Neuro-ophthalmology』誌のadvisory panelなど、国内外で重要な役割を果たしています。2006年には東京の増上寺を会場として国際神経眼科学会を開催するなど、国際的な学術交流にも尽力しました。

また、患者支援や啓発活動にも熱心で、心療眼科研究会の共同代表世話人やメンタルケア協会の評議員、眼瞼・顔面けいれん友の会の顧問などを務めています。2015年4月には、目の問題だけでなく心の悩みも抱える人々のためのNPO法人「目と心の健康相談室」を設立し、副理事長として活動しています。

診療においては、予約数を制限して一人ひとりの患者さんとじっくり向き合う時間を確保する特別外来を設けています。週の前半に診療を行い、週の後半は講演や執筆活動、NPO法人でのボランティア活動など、多岐にわたる活動に取り組んでいます。

評価と影響

神経眼科、特に眼瞼けいれん治療の分野における日本の第一人者として広く認識されており、日本神経眼科学会の診療ガイドラインの編纂にも携わっています。その専門性の高さから、全国各地からセカンドオピニオンを求めて多くの患者が井上眼科病院を訪れています。また、化学物質過敏症についても深い知識を持つ数少ない眼科医の一人としても知られています。

自身の専門知識や臨床経験に基づき、一般向けの著書やメディア出演（「たけしの健康エンターテインメント!みんなの家庭の医学」など）を通じて、見過ごされがちな目の病気や、目と心身の関連性について分かりやすく解説することにも注力しており、多くの人々に目の健康に対する意識向上を促しています。

主な著作

若倉氏は専門書から一般書まで多数の著作を出版しており、そのテーマは専門分野に関するものから、医療制度、患者学、さらには歴史小説まで多岐にわたります。

『目は快適でなくてはいけない』
『目力の秘密』
『健康は〈眼〉にきけ : 名医が教える眼と心のSOS』
『医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学』
『心療眼科医が教えるその目の不調は脳が原因』
『心をラクにすると目の不調が消えていく』

これらの著作を通じて、自身の専門知識や「眼は身体と心のバロメーター」という理念を広く社会に発信し続けています。

もう一度検索