范常

范常（はん じょう）

范常は、元末から明初の時代に活躍した官僚で、字を子権といいました。滁州清流県（現在の安徽省滁州市）を本貫としていましたが、具体的な生没年は明らかになっていません。

朱元璋との出会い

朱元璋が滁州に軍を駐屯させた際、范常は自ら馬鞭を携えて軍門に現れました。朱元璋は以前から范常の名を聞き知っており、二人はすぐに意気投合し、范常は幕下に迎えられることになりました。范常は朱元璋の諮問に対し、常に的確で実のある回答をすることで、その才能を認められました。

諫言と功績

1355年、紅巾軍の諸将が和州を攻略した際、略奪行為を働いていました。これに対し、范常は「一城を得たのに、人々をむごたらしく死なせていては、大事を成すことはできない」と朱元璋を諫めました。朱元璋はこの諫言を受け入れ、諸将を厳しく叱責するとともに、軍に捕らえられていた女性たちを解放し、それぞれの家に帰しました。

当時の中国は各地で群雄が割拠し、戦乱が絶えませんでした。朱元璋は范常に命じて、上帝に祈るための文を作成させました。その文才を高く評価した朱元璋は、范常に文書作成を司る文牘の役割を与え、元帥府都事に任命しました。その後、太平を奪取すると、范常は太平の知府に任じられました。范常の統治は簡素でありながらも、学問を奨励し、民衆を救済しました。官倉に備蓄されていた数千石の穀物を、種子不足に悩む農民に分け与え、秋に収穫された穀物を官に納めさせることで、公私ともに豊かさを実現しました。范常が知府として太平を治めた3年間、民衆は彼を深く慕い、愛しました。

明朝での活躍

後に、范常は南京に召還され、侍儀の役職に就きました。1368年、明朝が成立すると、范常は翰林直学士に抜擢され、太常寺卿を兼任しました。洪武帝（朱元璋）が古代の礼に関する文献を研究していた際、群臣を集めて議論させると、意見がまとまりませんでした。范常は様々な意見を調整し、皇帝の意向に沿った結論を導き出すことができました。

その後、范常は病気のため一時的に免官されましたが、一年後には再び洪武帝に召し出され、元の官職に復帰しました。洪武帝は宴会を開き、儒臣たちに詩を詠ませるのを好んでいましたが、范常は常に最初に詩を完成させ、その内容は率直なものでした。洪武帝は「老范の詩は質朴で、その人柄を表している」と評しました。その後、范常は起居注に異動しましたが、足に持病があったため、洪武帝から安車（あんしゃ、乗り心地の良い車）を賜りました。引退を願い出た際には、洪武帝は彼を惜しみ、四章からなる詩を贈り、太平に邸を賜りました。

家族

范常の子である范祖は、父と同じく官僚の道を歩み、雲南左参政という役職に就きました。范祖もまた、父同様に清廉潔白な人物として知られていました。

参考文献

* 『明史』巻135 列伝第23

范常は、その優れた能力と誠実な人柄で、元末から明初という激動の時代を生き抜き、朱元璋を支え、明朝の安定に大きく貢献した人物と言えるでしょう。

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