茨城県議会黒い霧事件

概要

茨城県議会黒い霧事件は、1960年代に茨城県政を揺るがした一大汚職事件です。議長選挙を巡る疑惑を端緒に、県議会議員や関係者による複数の不正行為が次々と明るみに出ました。この事件により県議会は自主解散に追い込まれ、多数の議員が逮捕・起訴される異例の事態となりました。

事件の発端と拡大

当時の茨城県議会では、議長のポストを1年ごとに交代するという慣例がありました。しかし、1965年12月に議長に就任した飯村泉氏は、この慣例に反して続投を強く望みました。自民党県連の幹部らの働きかけにより、飯村氏は最終的に辞職を受け入れましたが、その際に「議長になるためには経済的な負担があった」と述べ、就任時の買収工作が存在したことを示唆しました。

この発言を重く見た茨城県警察は、本格的な捜査を開始しました。捜査の進展に伴い、贈収賄やその他の不正行為に関与した疑いのある議員が多数浮上。事態を収拾するため、茨城県議会は1966年12月7日、「県民の信を問うべきだ」として、地方議会解散特例法に基づき自主解散を決定しました。

解散後の県議会議員総選挙は、前代未聞の混乱の中で実施されました。選挙公示前に、事件に関与したとされる議員の逮捕が相次ぎ、中には逮捕されたまま獄中から立候補する者や、指名手配中に逃亡先から立候補する者まで現れました。最終的に、事件に関わった議員は20名近くに上るとされています。

主な不正行為

事件で問題となった不正行為は多岐にわたります。

議長選を巡る贈収賄：1964年から1965年にかけて、議長選挙における票の取りまとめや選挙運動資金として、議員間で金銭の授受が行われたとされる複数の事件が発生しました。特に、三村勇氏が飯村泉氏父子から資金を受け取り、他の議員に配布したとされる件や、本沢彦氏が議長選に絡んで飯村氏から金銭を受け取ったとされる件などが捜査対象となりました。
議長就任後の謝礼金配布：飯村氏が議長就任後、当選の謝礼として有力議員を通じて他の複数の県議に金銭を配ったとされる事件も発覚しました。
議員による職務強要：本沢彦氏が、農業用水事業の工事入札に関連し、特定の建設会社を競争入札に参加させるよう茨城県の幹部に圧力をかけた事件も捜査されました。
事前選挙運動：収賄罪で全国指名手配されていた本沢彦氏が、逃亡・潜伏先から選挙区内の有力者に対し、事前選挙運動となる文書を郵送した事件も明らかになりました。
* 県有地借地詐欺：茨城県傷痍軍人会連合会の役員らが、同会の事務所建設を偽って県有地を借り受け、実際にはアパートを建設した詐欺事件も関連して捜査され、証拠隠滅なども行われたとされています。

裁判の経過と結果

この事件に関する裁判は、関係者の多さと複雑な状況から長期化しました。裁判においては、「茨城県警察本部長が、関係県議が事実を正直に話せば逮捕しないと約束した」という県議の証言が提出されるなど、異例の展開も見られました。

裁判所の判断は分かれるところもありました。例えば、1965年12月の謝礼金配布事件については、金銭の授受自体は認められたものの、これを議長選の謝礼ではなく、議会運営を円滑にするためのものと解釈し、一部の被告に無罪判決が下されました。田口正巳氏も、一部の贈収賄容疑については証拠不十分として無罪となりました。

本沢彦氏については、贈収賄事件とは別に選挙違反事件で公判が進められ、1972年5月に有罪判決が確定し公民権を停止されましたが、1974年11月には恩赦により公民権が回復しています。

事件全体の最高裁判決は1989年1月26日に下され、全ての被告に対する判決が確定しました。この判決確定時、3名が茨城県議の現職でしたが、三村勇氏のように実刑が確定した議員は、地方自治法および公職選挙法の規定により議員の職を失いました。多くの議員に執行猶予付きの有罪判決が言い渡された一方、死亡により公訴棄却となった者や、無罪となった者も複数いました。

1970年12月13日には任期満了に伴う県議選が再び行われ、この時点でも13名の被告が立候補し、そのうち9名が当選するという複雑な状況が見られました。

茨城県議会黒い霧事件は、戦後の地方政治における汚職の事例として、長く記憶されることとなりました。

もう一度検索