荒木田氏

荒木田氏：伊勢神宮と華族の栄光

荒木田氏は、代々伊勢神宮内宮の禰宜を務めた由緒ある日本の氏族です。その歴史は古く、中臣氏と同族であるという伝承も存在し、成務天皇の時代から荒木田姓を賜ったとされています。

しかし、荒木田氏は単一の家系ではなく、複数の分家が存在していました。大きく分けて「一門」と「二門」の2つの系統があり、さらに沢田家、薗田家、井面家、中川家、藤波家など、多くの家系に分かれていました。これらの家系は、内宮禰宜を務める資格を持つ「重代家」や「神宮家」、権禰宜を務める「地下権任家」など、役割や地位に差がありました。その中でも、沢田家が嫡流とされていました。

明治時代に入ると、沢田家は華族への昇格を目指します。当主であった澤田泰綱は、明治8年から4回にわたり華族編列を請願しましたが、いずれも認められませんでした。その後、養子として家督を継いだ澤田幸一郎も明治22年に同様の請願を行いました。

明治23年、宮内省による詳細な審査が行われました。審査書類『皇太神宮旧神官荒木田姓宗家家格御取立之件』では、沢田家の血統、家格、経済状況などが厳格に調査され、沢田家が他の分家よりも優位に立ち、荒木田氏の嫡流であることが明確に示されました。特に、歴代の中権禰宜を多く輩出し、財産面でも地価500円以上の土地と6000円以上の公債証書を所有していることが、所得税納税状況から裏付けられました。これらの事実を基に、叙爵が妥当であるとの結論が下されました。

明治天皇の裁可を経て、明治23年8月27日、沢田家に男爵位が正式に授与されました。澤田幸一郎は翌年、名を泰國と改め、大正7年には、本来の氏である荒木田に復姓しました。

昭和前期には、荒木田男爵家の邸宅は三重県宇治山田市宮後町にありました。荒木田氏は、伊勢神宮との深い繋がりを持ちながら、華族として明治時代以降の歴史を歩んだ、特異な家系と言えるでしょう。その歴史は、日本の氏族制度や、神道、華族社会を知る上で貴重な資料となります。

参考文献

華族大鑑刊行会『華族大鑑』日本図書センター〈日本人物誌叢書7〉、1990年
松田敬之『〈華族爵位〉請願人名辞典』吉川弘文館、2015年
森岡浩『日本名門・名家大辞典』東京堂出版、2012年

関連項目

社家
度会氏
小社神社

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