荒神谷遺跡

荒神谷遺跡

荒神谷遺跡（こうじんだにいせき）は、島根県出雲市斐川町神庭の小さな谷間に位置する弥生時代の遺跡です。1987年に国の史跡に指定されており、古代史を研究する上で非常に重要な場所となっています。

発見と調査

1983年、広域農道の建設に伴う事前調査で、古墳時代の須恵器の破片が発見されたことがきっかけとなり、発掘調査が開始されました。1984年から1985年にかけての大規模な調査の結果、大量の青銅器が発見され、日本考古学界に大きな衝撃を与えました。

出土した青銅器

荒神谷遺跡から出土した主な青銅器は以下の通りです。

銅剣: 358本。丘陵斜面の下段に、刃を起こした状態で4列に並べられていました。弥生時代中期後半に製作されたと見られ、長さは約50cm、重さは約500gとほぼ同じ大きさです。これらの銅剣には、茎に×印が刻まれているものがあります。

銅鐸: 6個。銅剣出土地点から7メートルほど奥まった場所で発見されました。鈕を向かい合わせる形で2列に並べられていました。最古の形式であるI式から、やや新しいII式のものまで含まれており、弥生時代前期末から中期中頃の製作と考えられています。

銅矛: 16本。銅鐸と同じ埋納坑の東側に、刃を起こし、矛先を交互に並べて寝かせた状態で埋められていました。中広形が14本、中細形が2本あり、銅剣とほぼ同時期か、若干後の時期に製作されたと推測されています。

これらの青銅器は、出土した場所や状態から、何らかの意図を持って埋納されたと考えられています。特に銅剣は一箇所から出土した数としては最多であり、古代出雲の勢力を物語る上で重要な資料となっています。

青銅器の製作と成分

出土した青銅器の成分を分析した結果、銅を主成分とし、スズと鉛を含む青銅であることが判明しました。スズの含有量は平均12.6%、鉛は平均4.3%で、これらの割合によって青銅の色合いが変化します。荒神谷遺跡の銅鐸は、わずかに黄色味を帯びた銅色をしていたと考えられています。

これらの青銅器がどこで製作されたのかは、まだ確定的な結論には至っていません。銅剣については出雲での製作の可能性も指摘されていますが、鋳型が発見されていないため、断定はできません。銅鐸については、近畿地方で製作されたとする説が有力でしたが、その後の調査で北部九州で製作された可能性も指摘されています。

遺跡の現状と公開

荒神谷遺跡は、1995年に「荒神谷史跡公園」として整備され、2005年には公園内に「荒神谷博物館」が開館しました。出土品は国（文化庁）が所有しており、現在は「島根県立古代出雲歴史博物館」に常設展示されています。また、荒神谷博物館でも特別展などで出土品が展示されることがあります。

遺跡の意義

荒神谷遺跡の発見は、日本古代史学・考古学界に大きな衝撃を与えました。大量の青銅器の出土は、実体の不明瞭であった古代出雲のイメージを払拭し、その政治的な勢力や文化的な背景を解明する上で、非常に重要な手がかりとなりました。特に、銅剣の茎に刻まれた×印は、加茂岩倉遺跡の銅鐸にも見られることから、両遺跡の関連性を示唆するものとして注目されています。

その後の発見

荒神谷遺跡の発見後、加茂岩倉遺跡でも大量の銅鐸が発見され、古代出雲の勢力に関する研究がさらに進展しました。これらの発見は、古代出雲が単なる神話の国ではなく、高度な文化を持つ政治的な勢力であったことを示唆しています。

まとめ

荒神谷遺跡は、古代出雲の歴史を解明する上で欠かせない重要な遺跡です。出土した青銅器は、当時の技術や文化、社会構造を理解するための貴重な資料であり、現在もその研究が続けられています。これらの出土品を通じて、古代の人々の生活や文化に触れることは、現代の私たちが過去を理解し、未来を考える上で大きな示唆を与えてくれるでしょう。

参考文献

『古代出雲と風土記世界』瀧音能之 編（河出書房新社）
『古代の出雲辞典』瀧音能之（新人物往来社）
『荒神谷遺跡』三宅博士、田中義明（読売新聞社）
* 『金・銀・銅の日本史』村上隆 2007年（岩波書店）

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