荒馬と女

荒馬と女：ハリウッド黄金期の悲劇と美しき野生

1961年公開のアメリカ映画『荒馬と女』（原題: The Misfits）は、マリリン・モンローとクラーク・ゲーブルの遺作として映画史に刻まれた作品です。この映画は、単なる西部劇ではなく、運命に翻弄される人々のドラマ、そしてハリウッド黄金期の華やかさと影を鮮やかに描き出しています。

物語の舞台はネバダ州リノ。　離婚を経験したばかりのロズリン（マリリン・モンロー）は、そこで年老いたカウボーイ、ゲイ（クラーク・ゲーブル）、自動車修理工のグイド（イーライ・ウォラック）と出会います。彼らは偶然見つけた野生馬の群れを捕獲し、ドッグフード工場に売ろうという計画を立てます。若いカウボーイ、パース（モンゴメリー・クリフト）も加わり、捕獲作戦は始まりますが、ロズリンは計画に反対します。

この物語は、一見すると西部劇の様相を呈していますが、その本質は人間関係の複雑さと、時代の変化の中で生きづらさを感じる人々の姿にあります。ロズリンは、過去のトラウマや現代社会への適応に苦しみ、ゲイは老境を迎えたカウボーイとして時代の変化に戸惑い、グイドは独自の生き方を模索する男です。彼らが野生馬を捕獲しようとする行為は、自分自身の人生を制御しようとする象徴的な行動なのかもしれません。

映画の見どころは、個性豊かな登場人物たちの織りなす人間ドラマです。モンロー演じるロズリンは、自立した女性像を演じながらも、心の奥底にある脆弱さも垣間見せます。ゲーブル演じるゲイは、老いたカウボーイの威厳と哀愁を漂わせ、モンゴメリー・クリフト演じるパースは、若さと焦燥感を混ぜ合わせた複雑な人物像を表現しています。

しかし、この映画は、単なる人間ドラマとしてだけでなく、ハリウッドという世界の一側面を映し出している点でも特筆すべきでしょう。撮影当時、モンローとゲーブルは、それぞれ私生活で苦悩を抱えていました。モンローは、ファザーコンプレックスを抱えており、ゲーブルを頼れる男性として見ていたという説もあります。二人の親密さは映画を超えており、その関係は映画製作後も注目されました。しかし、撮影中のゲーブルの突発的な死は、モンローに大きなショックを与え、彼女はゲーブル・ファンからの批判に苦しみました。モンゴメリー・クリフトもまた、数年後に若くして亡くなっています。この映画の製作過程は、まさに「適合せざる者たち（The Misfits）」という原題が示唆するように、出演者たちの悲劇的な人生と深く結びついています。

さらに興味深いのは、この映画の撮影の様子を写真家インゲ・モラス（後にアーサー・ミラーと結婚）が記録していた点です。彼女の撮影した写真は、映画の製作過程だけでなく、当時のハリウッドの雰囲気や、出演者たちの姿を知る上で貴重な資料となっています。

『荒馬と女』は、単なるエンターテイメント作品としてだけでなく、時代と個人の葛藤、そしてハリウッドという世界の光と影を描き出した、複雑で深みのある作品です。出演者たちの波乱の人生と絡み合い、観る者に様々な感情と深い余韻を残す、忘れ難い映画と言えるでしょう。

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