荻原碌山

荻原碌山：情熱と葛藤の生涯

荻原碌山(おぎわらろくざん、本名:守衛)は、明治時代に活躍した彫刻家です。1879年、長野県に生まれました。幼少期は病弱でしたが、読書や絵を描くことを愛し、静かに過ごしていました。17歳の時、運命的な出会いが訪れます。それは、白いパラソルをさした美しい女性、相馬黒光(そうま くろみつ)との出会いでした。黒光は、東京の女学校で学んだ教養豊かな女性で、碌山の芸術への目覚めに大きな影響を与えました。

芸術家としての道を歩む

黒光との出会いをきっかけに芸術への情熱を燃やした碌山は、洋画家を目指して1901年、アメリカに渡ります。ニューヨークで絵画を学びながら、地道にアルバイトを続けました。人間の姿を正確に描くことに没頭し、骨格や筋肉の動きを徹底的に研究しました。しかし、彼はまだ表現したい真のテーマを見出せていませんでした。

転機は1903年、フランス・パリへの旅でした。そこでオーギュスト・ロダンの「考える人」と出会い、彫刻に転向することを決意します。ロダンの作品は、碌山に「人間を描くとは、その姿を写し取るだけでなく、魂を描くことだ」という深い気づきを与えました。

1906年、再び渡仏した碌山はアカデミー・ジュリアン彫刻部に入学。才能を開花させ、コンペでグランプリを獲得するほどの腕前になりました。1907年にはロダンに師事し、彫刻家としての道を着実に歩んでいきました。イタリア、ギリシャ、エジプトなどを巡り、研鑽を積んだ後、日本へ帰国しました。

黒光との再会と禁断の恋

帰国後、東京新宿にアトリエを構えた碌山は、そこで黒光と再会します。黒光は夫の相馬愛蔵と上京し、新宿で中村屋を開業していました。碌山は黒光と家族ぐるみの付き合いを始め、彼女の傍で作品を作り、喜びを感じていました。しかし、碌山は黒光に恋心を抱いてしまいます。それは、許されない恋でした。

黒光の夫、愛蔵の浮気が発覚した時、碌山の気持ちは抑えきれないほどに燃え上がります。彼は友人に宛てた手紙で、苦悩を吐露しています。

作品に込めた葛藤

この苦悩は、碌山の作品に反映されています。1908年、第二回文展に入選した「文覚」は、人妻を愛した僧侶の悲劇を描いた作品です。碌山は、文覚の激しい葛藤の中に、自身の抑えきれない恋心と葛藤を重ね合わせて表現しました。

黒光の苦悩もまた、碌山の作品に影響を与えました。「デスペア」(1909年)は、地面に顔をうずめた女性の像で、黒光の絶望的な心情を表しています。さらに、黒光の病に伏せる息子を描いた「母と病める子」(1910年)も、その悲しみと現実を受け止めようとする強さを表現しています。「女」(1910年)は、運命に抗う人間の強さと、希望と絶望の葛藤を表す傑作です。

夭逝とその後

1910年、碌山はわずか30歳で急逝しました。彼の死後、黒光は彼の作品と向き合い、その深遠な意味を改めてかみしめたことでしょう。碌山の作品は、彼の激しい情熱と葛藤、そして深い人間性を伝えています。現在も、多くの人の心を捉え続けています。彼の生涯と作品は、現代においても多くの示唆を与え続けています。彼の作品は、今もなお、多くの美術館に収蔵され、人々に感動を与え続けています。

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