萬田正治

人物概要

萬田正治（まんだ まさはる）氏は、1942年4月23日生まれの日本の農学者です。専門は畜産学。長年にわたり鹿児島大学で教鞭をとり、現在は同大学名誉教授を務めています。単なる研究者にとどまらず、実践者として日本の農業が直面する課題解決に積極的に取り組んでいます。

経歴

萬田氏は1942年に佐賀県鳥栖市で生まれ、福岡県北九州市で育ちました。鹿児島大学農学部を卒業後、東北大学大学院を修了し、酪農学園大学での講師職を経て、鹿児島大学に着任しました。

学内では要職を歴任し、2001年には鹿児島大学副学長に就任。教育・研究組織の運営に貢献しました。2003年には定年より早く退職し、鹿児島大学名誉教授の称号を得ています。

退職後もその活動は多岐にわたり、2004年には自身で「萬田農園」を開設しました。また、鹿児島大学経営協議会委員（2008年）、鹿児島大学稲盛アカデミー特任教授（2015年）など、大学との関わりも継続しました。このほか、放送大学客員教授や鹿屋体育大学理事なども兼任しました。

主な活動と貢献

萬田氏の最大の功績の一つは、持続可能な農業の実践と普及です。特に、環境負荷の少ない農法として合鴨農法に着目し、その技術確立と全国への普及に努めました。自らの萬田農園で無農薬米の生産に合鴨農法を導入し、そのノウハウを広く公開しました。1992年からは「全国合鴨水稲会」の代表世話人として、この農法の普及に尽力し、特に鹿児島県内の多くの農家がその恩恵を受けています。

また、地域社会の活性化や環境保全にも熱心に取り組みました。鹿児島大学在職中には、屋久島でのサルによる農作物被害に対し、電気柵を用いた効果的な対策を提案・推進しました。

農村と農業のあり方を問い直し、改革を目指す場として、「竹子農塾（たかぜのうじゅく）」を開設・主宰し、専門家を招いた座学などを通じて理論的な学びの機会を提供しています。さらに、棚田が持つ美しい景観や治水・治山の機能に着目し、都市住民との交流・協力を通じて棚田や周辺環境を保全する目的で「田主の会」を立ち上げました。田主の会では、2013年には棚田の一角に小水力発電機を設置し、そこで得た電力を使って小型電動自動車で地元の特産品を高齢者宅へ宅配するという、地域に根差した新たな取り組みも行いました。

多様な農業形態の可能性も探求しました。2014年には、奄美大島で有機農業を目指す取り組みに対し、ヤギや鶏を贈る形で協力しました。また、産業としての農業が行き詰まる現状に対し、家庭での食料自給という「生活農業」の重要性を提唱し、手軽に始められる循環型農業として「庭先養鶏」を推進。「庭先養鶏の会」を2015年3月に設立し、家庭の生ごみを鶏の餌として活用し、卵や肉を得るという取り組みを広めています。

大規模農業偏重の傾向に警鐘を鳴らし、小規模農家や兼業農家の価値を再評価する必要性を訴え、2015年11月には「小農学会」を設立し、共同代表を務めています。これは、多様な担い手による日本農業の維持・発展を目指す重要な提言です。

著書

萬田氏は、自身の研究成果や実践経験に基づき、多くの著書を出版しています。単著としては、『アイガモ 飼育技術の基礎』（1997年）、『新特産シリーズ ヤギ』（2000年）、『ヤギの絵本』（2000年）、『生活農業の時代 竹子農塾講義録』（2010年）などがあります。共著としても、ヤギの飼育や家畜管理、家禽学など、畜産学の幅広い分野に関する専門書を多数発表しています。

萬田氏の活動は、学術研究と地域での実践を結びつけ、日本の農業・農村が持続可能な未来を築くための多角的なアプローチを示しています。

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