葬式ポテト

葬式ポテト（そうしきポテト）

葬式ポテト（英語名: funeral potatoes）は、アメリカ合衆国のユタ州を中心とした地域で広く親しまれている家庭料理です。ジャガイモを主役に据えた温かいキャセロール料理の一種であり、その手軽さから大人数の集まりで振る舞われる機会が多く、特に葬儀後の会食によく登場することからこのユニークな名称で呼ばれるようになりました。アメリカ南部などでは、これに似た料理をチーズポテトキャセロールやポットラックポテトなどと呼ぶこともあります。

この料理の魅力は、その素朴ながらも満足感のある味わいと、クリーミーでサクサクとした対照的な食感にあります。基本的な作り方は家庭によって異なりますが、一般的には細かくしたハッシュドポテトを土台とし、そこに刻んだチーズやクリーム状のスープ（チキンクリームスープなどが一般的で、手軽に缶詰を用いることが多い）、サワークリームなどを混ぜ合わせ、耐熱のキャセロール皿に流し込みます。そして、表面には砕いたコーンフレークやクラッカー、パン粉などを散らしてオーブンで焼き上げます。焼き色がつくことで、香ばしさとカリッとした食感が加わり、内部のクリーミーなジャガイモとの絶妙なハーモニーが生まれます。

「葬式ポテト」という名前は少し意外に聞こえるかもしれませんが、これにはこの料理がどのような場面で役立つかがよく表れています。ユタ州を含むアメリカの山岳地帯西部では、冠婚葬祭のような特別な機会やコミュニティの集まりにおいて、多くの人が集まって食事を共にする習慣があります。葬儀の後には、参列者が故人を偲び、遺族を慰めるために集まりますが、この際に振る舞われる料理として、一度に大量に作れて持ち運びやすく、かつ多くの人に喜ばれる葬式ポテトが重宝されてきました。また、ユタ州にはモルモン教の信徒が多く居住しており、教会や地域のイベントが頻繁に開催されます。このような場面でも、大人数に対応できる葬式ポテトのような料理は大変便利で、地域社会に根付く一因となりました。さらに、「葬式ポテト」というユーモラスで記憶に残りやすい名前自体も、この料理が広く知られるきっかけの一つになったと考えられています。

家庭料理としての側面が強い葬式ポテトですが、ユタ州に発祥を持つローカルレストランチェーンでは、サイドメニューや前菜（アペタイザー）として提供されている場所も少なくありません。地元の人々にとっては、お母さんの味、故郷の味として親しまれているコンフォートフードと言えるでしょう。近年では、歌手のセレーナ・ゴメスが母親の作る葬式ポテトを好物として挙げたことでも知られています。ユタ州の食文化を語る上で欠かせない、地域に根差した温かい一品です。

※ なお、ユタ州ではモルモン教の教義が社会規範や州法に影響を与えている側面があり、一部の飲食店ではアルコール飲料を提供していない場合がありますが、これは葬式ポテトそのものの性質とは直接的な関係はありません。

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