蒼ざめた礼服

蒼ざめた礼服

松本清張による長編推理小説『蒼ざめた礼服』は、1961年から1962年にかけて『サンデー毎日』で連載された後、1966年に光文社から刊行されました。物語はサラリーマンの日常から始まり、次第に国家の陰謀に巻き込まれていくという緊張感ある展開が特徴です。本作は、作中に描かれる社会的背景や人間関係の構造が深く掘り下げられており、推理小説としてだけでなく、社会的メッセージも含まれています。

あらすじ

主人公は、洋傘製造会社に勤務する片山幸一という独身のサラリーマンです。彼は日々の生活に嫌気がさし、怠惰な日常からの脱出を求めています。そんなある日、片山は古雑誌『新世紀』を探している随筆家の関口貞雄と出会います。関口を通じて、疑獄事件を追跡している経済研究所『柿坂経済研究所』に転職した片山は、新たな生活を開始します。

片山は好奇心から、元『新世紀』編集長である本橋秀次郎の行方を追うことになりますが、急に彼の遺体が見つかるという衝撃の展開が待っています。片山はこの事件の真相を解明しようと、様々な手がかりを手に入れていきます。

物語の進行とともに、片山は本橋と彼の関係者たちの間にある複雑な人間関係や政治的背景に気付くようになります。特に、彼が関心を持つ長尾智子という女性との繋がりが重要なポイントとなり、彼女がアメリカの防衛大手副社長・パーキンソンと関わっていることが明らかになります。この情報は、片山が抱えるネクタイの男との関連性を持つことになります。

日本の防衛産業に関する疑惑が深まる中、片山は同僚の友永や西岡とともに、次々と発生する不審な出来事に直面します。やがて、彼は長尾智子が国防庁の役人・神野彰一と関わっていることを知り、さらなる調査を進めますが、彼自身が危険な目に遭うことになります。

主な登場人物

• - 片山幸一：サラリーマン。独身。日常からの脱出を望む。
• - 柿坂亮逸：柿坂経済研究所の所長。元代議士。
• - 橋山義助：経済研究所の常務理事。
• - 長尾智子：ナイトクラブのホステス。元『新世紀』編集者。
• - I・S・パーキンソン：アメリカの防衛大手の副社長。
• - 東洞直義：国防庁に influ 比がある工学博士。
• - 神野彰一：内閣直属の情報機関に関与する役人。

エピソード

本作は、松本清張の他の作品と同様に、現実の社会問題を反映した内容が盛り込まれています。文芸評論家の尾崎秀樹は、この作品が政治のメカニズムに関する深い洞察を提供していると指摘しており、「蒼ざめた礼服」が象徴的に描写されることでテーマが際立っていると述べています。このように『蒼ざめた礼服』は、単なる推理小説にとどまらず、政治や社会の構造に対する鋭い分析を提供しています。

まとめ

『蒼ざめた礼服』は、サラリーマンの無気力から始まる物語が、次第に国家の暗い一面に迫る様子を描いた作品です。片山の成長や、彼を取り巻く人物たちとの複雑な関係性が、読者に深い思索を促します。松本清張の巧妙な筆致に触れながら、彼の作品の魅力を味わうことができます。

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