薄扶林

薄扶林（ポックフーラム）は、香港島の西部に広がる住宅と文教の中心地です。行政区画としては南区に属し、ヴィクトリア・ピーク（太平山）の斜面から西の海へと開けた、高低差のある地形が特徴です。幹線道路である薄扶林道からの眺望は特に素晴らしく、この地区の景観を印象づけています。

この地域には、香港大学の学生寮や医学部（港大李嘉誠医学院）をはじめとする教育機関が数多く存在します。また、香港有数の規模を誇る瑪麗医院（クイーンメリーホスピタル）や、小児病院である根徳公爵夫人児童医院、麦理浩復康院など、医療施設も充実しています。これらの医療施設が集中している背景には、山と海に囲まれた環境の良さがあると考えられています。都会の喧騒から離れた、静かで落ち着いた環境が、医療施設の立地に適しているのでしょう。

海沿いのエリアには、西洋人の居住者が多く見られます。また、中華基督教墳場という墓地も存在します。特筆すべきは、高級住宅が立ち並ぶエリアの中に、香港の古い村落が残っている点です。鋼綫灣村と薄扶林村がその例で、特に薄扶林村は、バス通りからもバラックのような建物が立ち並ぶ様子をよく見ることができます。これらの古い村は、開発計画によって存続の危機に瀕しており、反対運動も起こっています。

山間部には薄扶林郊野公園（ポクフラムカントリーパーク）が広がっており、自然に親しむことができるエリアが設けられています。ここには、香港島にとって重要な水源の一つである薄扶林水塘があります。代表的なハイキングコースとしては、薄扶林家樂徑（ポクフラムファミリーウォーク）や港島徑第一段（ホンコントレイルセクション1）が整備されています。また、エリアの北部には龍虎山郊野公園もあり、こちらにもハイキングコースが設けられています。これらの公園は、都会に住む人々に貴重な自然との触れ合いの機会を提供しています。

公共交通機関については、現在鉄道は通っていませんが、将来的にMTR南港島線（東段）が延伸する計画があります。しかし、薄扶林には駅が設置される予定はなく、サイバーポート駅が最寄りとなる予定です。このため、現在の主な移動手段はバスとなります。バス路線は充実しており、香港各地へのアクセスは比較的良好です。

薄扶林は、教育、医療、そして自然が調和した独特な雰囲気を持ち合わせています。近代的な都市開発が進む一方で、昔ながらの村落が残るこの場所は、香港の多様性を象徴する場所と言えるでしょう。今後、MTR南港島線の延伸によって、交通の利便性が向上することが期待されますが、同時に、残された自然や村落の景観をどのように守っていくかが課題となるでしょう。

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