薄氷の殺人

薄氷の殺人：金熊賞に輝く中国サスペンスの深淵

2014年公開の中国映画『薄氷の殺人』（原題：白日焰火、英題：Black Coal, Thin Ice）は、ディアオ・イーナン監督による長編第3作であり、第64回ベルリン国際映画祭で最優秀作品賞（金熊賞）と最優秀男優賞（銀熊賞）の栄誉に輝いた傑作です。連続殺人事件を軸に、傷ついた刑事と謎めいた女性の複雑な関係、そして隠された真実が鮮やかに描かれています。

物語は1999年、中国のとある地方都市から始まります。 離婚の傷を抱える刑事ジャンは、石炭工場で発見されたバラバラ死体という衝撃的な事件に直面します。遺体は複数の工場に散らばっており、捜査は難航。犯人を追う過程で、ジャンは同僚を失い、自身も重傷を負います。

それから5年後、2004年。 刑事課を離れ、酒に溺れる日々を送っていたジャンのもとに、元同僚のワン刑事から連絡が入ります。5年前と同様の手口の殺人事件が発生したのです。被害者たちは、ある女性ウーに関係のある男性たちでした。

ジャンはウーに接近し、彼女と次第に惹かれ合っていきます。しかし、彼らの行動は、ワン刑事や、彼らを尾行する別の男の命を奪うことになります。ジャンは、尾行していた男が列車に小さな荷物を落としたのを目撃します。その荷物こそ、犠牲者の遺体の一部だったのです。

ウーは、過去の事件に関与していたことをジャンに告白します。最初の犠牲者リアンは、強盗殺人犯。ウーは、リアンの犯行を隠蔽するために遺体をバラバラにして遺棄し、その後も、ウーに執着する男たちを殺し続けていたのです。ジャンが目撃したものは、ワン刑事の遺体の一部だったという衝撃の事実が明らかになります。

ジャンはウーに真実を伝え、協力を取り付けます。警察はリアンを逮捕しようとしますが、彼は逃亡中に射殺されます。事件は解決したかに見えますが、ジンの心に引っかかるものがありました。それは、最初の殺人事件の被害者の身元です。

ウーの働くクリーニング店で、1999年から持ち主が来ないコートを発見し、そのポケットから名刺を見つけます。捜査を進め、ジャンは5年前に失踪したバー「白昼の花火」のオーナーが、最初の被害者だったことを突き止めます。そして、その犯人はウーだったのです。ウーは、自分に執着する男を殺害し、リアンは妻の罪を隠蔽するために協力していた。しかし、真相が明るみになりそうになったことで、ウーはリアンを裏切ったのです。

リャオ・ファン、グイ・ルンメイ、ワン・シュエビンら実力派俳優の熱演も光る本作は、複雑に絡み合う人間の業と、それを追う刑事の葛藤、そして予想外の結末が観る者を圧倒します。緻密な脚本と、重厚な映像美も相まって、忘れがたい衝撃と感動を与えてくれる、まさに傑作中の傑作と言えるでしょう。

この映画は、単なる犯罪映画の枠を超え、人間の心の闇と、その闇に抗う人間の強さを描いた、深く考えさせられる作品です。中国映画の新たな地平を切り開いた『薄氷の殺人』は、必見の1本と言えるでしょう。

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