薄紅天女

『薄紅天女』

荻原規子による主人公の成長と冒険が描かれたファンタジー小説『薄紅天女』は、1996年に徳間書店から刊行されました。この作品は、奈良時代末期を背景にしており、歴史的な物語と神話が融合した魅力的なストーリーを提供しています。

あらすじ

物語は、武蔵の国にある竹芝の家から始まります。大王の子孫であるこの一族には、双子のように育った叔父の藤太と甥の阿高がいます。二人は村人から「竹芝の二連」として知られ、仲の良い存在です。しかし、ある日、藤太が隠していた秘密が明らかになり、阿高との間に亀裂が生じます。阿高は家を飛び出し、北の地で蝦夷の男たちと出会い、母の故郷へ向かうことになります。
一方、藤太は、坂上田村麻呂という人物の密命を受けて、阿高を探しに北に向かいます。この時、京では怨霊が広がり、皇太子である安殿皇子もその脅威に晒されていました。安殿皇子の妹、苑上は兄を守るために危険を顧みず行動し、男装して藤原仲成と共に都を去ることになります。

登場人物

この作品には多くの個性豊かなキャラクターが登場します。

阿高（あたか）

武蔵国の竹芝一族の現当主の孫で、無口で神秘的な青年。彼は生まれて間もなく両親を失っており、祖父と共に育ちました。自らの巫女の力を知らずにいたが、次第にその力の宿命と向き合うことになります。非常に内向的でありながら、優れた感情を持ち、自身の力と家庭の絆を求めます。

藤太（とうた）

阿高と同じ竹芝の一族で、明るく愛想の良い青年。周囲の人々に対して優しさを持ち、特に女性に対しては優しく接します。しかし、秘密を抱えており、阿高との関係に波紋を呼びます。彼は阿高を追うという使命感に燃え、成長していきます。

苑上（そのえ）

皇太子の妹で、気が強く行動的な内親王。兄の安殿皇子を危険から守ろうとする一途な姿勢や、男装して仲成の元で活動する姿が目を引きます。自身の立場や存在意義に悩むが、仲間と共に怨霊に立ち向かう勇敢さを見せます。

作品のテーマ

『薄紅天女』には、家族の絆、過去との対峙、自己発見といったテーマが色濃く描かれています。阿高は自らのルーツを知り、自身の力をどのように使うのかを模索します。一方で、藤太や苑上もそれぞれの目的に向かって成長し、友情や愛情を深めていきます。
怨霊との戦いや、秘められた真実が彼らの運命に影響を与え、物語全体を通じてドラマの緊張感が保たれています。

この作品は、ファンタジーとしての面白さだけでなく、リアルな人間ドラマが融合しているのが魅力です。また、同作者の作品と共に語られ、勾玉三部作や勾玉シリーズの一つとして多くの読者に親しまれています。

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