薔薇の葬列

薔薇の葬列：新宿の闇と光を描いた異色の青春劇

1969年、日本映画界に衝撃を与えた作品『薔薇の葬列』。監督は、実験映画作家として名高い松本俊夫。彼の劇場用長編第一作であり、そして、後に国民的スターとなるピーター（池畑慎之介）の鮮烈なデビュー作でもあります。本作は、新宿のゲイバーを舞台に、エディという若きゲイボーイの葛藤と、彼を取り巻く人間模様を、鮮烈な映像と独特の演出で描き出しています。

新宿ゲイバーの青春群像劇

物語の中心は、新宿のゲイバー「ジュネ」で働くエディ。彼はバーのオーナーである権田と親密な関係にあり、その関係は、バーのママであるレダの激しい嫉妬を招きます。レダによるエディへの妨害工作は失敗に終わり、エディはバー、そして権田をも掌握するようになります。しかし、その支配は長くは続かず、エディはある出来事をきっかけに自らの運命を悟るのです。

映画は、1967年公開のイタリア映画『アポロンの地獄』を下敷きにしており、「裏オイディプス物語」とも評される、複雑で重層的な人間関係が描かれています。舞台となるのは、猥雑でエネルギーに満ちた1960年代後半の新宿。その独特の雰囲気は、スクリーンを通して鮮やかに蘇ります。

アヴァンギャルドな演出と豪華な友情出演

松本俊夫監督の演出は、従来の日本映画とは一線を画すアヴァンギャルドな作風です。俳優たちがカメラに向かって直接語りかけるシーンや、当時の先鋭的な芸術家や文化人が多数友情出演しているなど、実験映画作家ならではの独創的な手法が随所に用いられています。

主演のエディ役には、100名近い候補者がオーディションを受けましたが、なかなか適役が見つかりませんでした。そんな中、作家の水上勉氏からの知らせで、六本木のゴーゴー・クラブで出会ったのが、当時16歳だったピーターでした。その圧倒的な存在感と個性は、監督の目を瞬時に捉え、即決でキャスティングされたと言われています。

作品の評価とその後

『薔薇の葬列』は、公開当時から高い評価を受け、現在でも多くの映画ファンを魅了し続けています。その独特の世界観と、実験的な映像表現は、日本の映画史において重要な位置を占めています。サンフランシスコのフィルムアーカイブに寄贈され、2006年には英国でDVD化されるなど、海外でも高い評価を受けています。

スタッフ・キャスト

監督、脚本：松本俊夫
撮影：鈴木達夫
美術：朝倉摂
編集：岩佐寿枝
音楽：湯浅譲二

エディ：ピーター（池畑慎之介）
権田：土屋嘉男
レダ：小笠原修
母：東恵美子

その他、多数の俳優、そして秋山庄太郎、粟津潔、淀川長治といった当時の著名な文化人が友情出演しています。

まとめ

『薔薇の葬列』は、実験的な映像表現、独特の世界観、そして豪華なキャストによって彩られた、忘れがたい傑作です。新宿という街のエネルギー、そして人間の心の闇と光を鮮やかに描き出した本作は、日本の映画史に燦然と輝く、不朽の名作としてこれからも多くの人々に語り継がれていくことでしょう。

もう一度検索