薔薇刑

『薔薇刑』の全貌

『薔薇刑』（ばらけい）は、1963年に集英社より刊行された、著名な写真家・細江英公による三島由紀夫の裸体写真集です。本作は、細江の幻想的で耽美的な視点から紡がれた、肉体そのものとそのオブジェとしての美しさに焦点を当てた作品です。全5章から構成され、96枚の肖像が収められています。"

作品の成り立ちと撮影の背景

この写真集の背後には、三島由紀夫と細江英公の深い関係があります。三島は1961年に出版された細江の作品『おとこと女』を高く評価し、自身の評論集『美の襲撃』に関連する写真を細江に依頼しました。こうした経緯から、1961年の9月に細江が三島の自宅を訪れた際、裸体で日光浴をしていた三島をそのまま撮影することが決まったのです。この撮影が後の『薔薇刑』につながることになりました。撮影は、およそ半年の間、何度も行われました。

三島は細江のカメラの前では自分の精神や心理が求められないことを知り、これは彼が求めていた独特の体験であったと語っています。撮影は東京都内の様々な場所で行われ、自邸や廃工場の一角、舞踏家土方巽の稽古場などで、さまざまなポーズが展開されました。この撮影においては、女優の江波杏子や土方巽がモデルとして活躍しています。

作品の構造と内容

『薔薇刑』は、5つの章から成り立ち、その構成は見る者に「漠然としたストーリー」を想起させます。章ごとに異なるテーマや表現方法が採用され、写真は単なる視覚的な刺激を超え、多くの解釈を誘発します。とりわけ、三島の肉体は、彼の文学作品における美の探究ともリンクしており、彼自身が追い求めた存在感を強く表現しています。

発表や復刻の経緯

1962年、銀座で行われた若い写真家のグループ展「NON」展に、20点の写真が展示され、さらに1963年に『薔薇刑』が正式に刊行されました。初版は3,500円という価格で販売されましたが、その後、版画としての価値が高く評価され、古書市場で数十万円にまで跳ね上がりました。

1971年には、三島の新たな解説を加えた『薔薇刑 新輯版』が集英社から刊行され、その後も『薔薇刑・新版』や完全復刻版が発表されるなど、様々な形で愛され続けています。特に2008年には、著者の細江英公による署名入りの復刻版が限定500部で発行され、即座に完売しました。

評価と影響

『薔薇刑』は、日本国内外で高く評価され、特に国際的な写真展でも注目を集めました。安部公房をはじめとする多くの著名な作家や批評家からの賞賛を受けており、写真と文学の交錯する作品としての位置づけを獲得しています。

また、三島の言葉に見られるように、彼自身がオブジェとしての存在を求め、その肉体を惜しげもなく晒したことは、後の彼の芸術表現においても重要なテーマとなりました。このように『薔薇刑』は、単なる写真集を超え、三島由紀夫の深い美意識や文学的探求を映し出す重要な作品といえるでしょう。

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