藤原マキ

藤原マキ：女優、絵本作家、そして妻として生きた女性

藤原マキ（1941年 - 1999年）は、状況劇場でその名を馳せた女優であり、後に絵本作家としても独自の才能を発揮した人物です。漫画家つげ義春の妻としても知られ、その生涯は演劇、芸術、そして家族愛に彩られていました。

アングラ演劇の世界へ

大阪府に生まれた藤原マキは、高校卒業後、女優を志して関西芸術座で演劇を学びました。その後、上京し、唐十郎が主宰するアングラ劇団・状況劇場に参加。「腰巻お仙」の初代お仙役や「由井正雪」の夜桜姐さん役など、数々の舞台で強烈な存在感を放ちました。当時のアングラ演劇は、社会への反抗や自由な表現を追求する若者たちの熱いエネルギーに満ちていました。

つげ義春との出会いと結婚

状況劇場を退団後、藤原マキは漫画家つげ義春と出会い、同棲を経て結婚しました。二人の出会いは、駆け出しのカメラマンがつげを撮影する際に藤原を連れてきたことがきっかけでした。当時の藤原は、アングラ芝居の収入が不安定で生活に困窮しており、つげの家に身を寄せることになったのです。つげと唐十郎は面識がありませんでしたが、後に唐の公演を二人で観に行った際、唐が彼らを招き入れたというエピソードも残っています。

絵本作家としての才能開花

1982年、藤原マキは家族の日常を描いた絵本『私の絵日記』を刊行し、絵本作家としてデビューしました。柔らかなタッチの絵と伸びやかな文章で綴られたこの作品は、多くの読者の心を捉え、英訳版はアメリカの漫画賞「アイズナー賞」最優秀アジア作品賞を受賞する快挙を成し遂げました。この受賞をきっかけに、日本語版も重版され、広く読まれるようになりました。

つげ義春との生活と葛藤

藤原マキは、つげ義春のファンでもあり、彼の作品の映画化にも出演しました。しかし、二人の生活は決して平坦なものではありませんでした。1983年には、つげが私生活を赤裸々に綴った『つげ義春日記』が発表され、その内容を誇張と感じた藤原との間に亀裂が生じました。それでも、二人は家族旅行を重ね、互いを支え合いながら生活を続けました。

晩年と遺されたもの

1976年に子宮癌を発症し、手術を受けた藤原マキでしたが、1999年2月に再発により永眠しました。彼女が遺した絵本は、今も多くの人々に愛され続けています。佐野史郎は、「僕が状況劇場に入団したのは、マキさんが退団したずっと後でしたが、強烈な個性を持った伝説的な女優として語り継がれていました」と述べています。

著書一覧

私の絵日記（1982年）
こんなおみせしってる？（1985年）
幸せって何?―マキの東京絵日記（1987年）
藤原マキ画集「駄菓子屋」（1994年）

藤原マキの生涯は、時代の波に乗りながらも、自分の才能を信じ、家族を愛し続けた女性の物語です。彼女の作品は、私たちに日常の美しさや家族の温かさを教えてくれます。

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