藤本典征

藤本 典征

プロ野球界で選手、そして審判員として多大な足跡を残した藤本 典征（ふじもと のりゆき）氏は、1944年7月29日に佐賀県で生を受けました。佐賀県立伊万里高等学校を卒業後、野球の道を志しました。

選手としての始まり

1963年、投手として広島カープに入団し、プロ野球選手としてのキャリアをスタートさせます。しかし、肩の故障に見舞われたため、残念ながら一軍公式戦での出場機会を得ることは叶いませんでした。短い選手生活を終え、現役を引退します。引退後は一般企業である晃商事を経て、新たな道へと進むことになります。

審判の道へ

1969年、パシフィック・リーグの審判部に入局し、プロ野球のグラウンドに再び立つことになりました。審判としてのキャリアを歩み始めた藤本氏に、1977年に初めて採用された審判員袖番号として「24」番が与えられました。この番号は、氏が指導員となった後も一時期引き継がれましたが、専任となった2003年以降は返上され、欠番となりました。

審判としての輝かしい実績

藤本氏は審判として長きにわたり活躍し、2002年シーズン終了時点で通算3214試合の出場記録を樹立しました。特に日本シリーズにおいては、34歳となった1978年に初めて出場を果たして以来、1988年まで11年連続で出場するという、まさにシリーズの常連ともいうべき存在となりました。日本シリーズには合計14回出場しており（1978年から1988年、1991年、1992年、1998年）、その中で1978年、1980年、1986年の各第4戦、1979年、1983年の各第3戦、1984年、1988年の各第2戦、1985年の第5戦、1987年の第1戦、1991年の第7戦、そして1982年、1992年の各第6戦では、最も重要なポジションである球審を務めています。また、真夏の祭典であるオールスターゲームにも7回出場（1976年、1977年、1981年、1985年、1989年、1997年、1998年）しており、1977年と1981年の第2戦では球審を担当するなど、数々の大舞台で公正なジャッジを下しました。

個性と困難を乗り越えた歩み

プロ野球審判員の中では珍しい「左利き」であったことは、藤本氏の大きな特徴の一つです。特に、1978年の日本シリーズ第7戦、ヤクルトスワローズが球団史上初の日本一を決めた歴史的な瞬間のゲームセットのコールを、左手で力強く行ったことは多くのファンの記憶に残っています。また、判定の際に大きく腕を振り下ろす、情熱的な「震えるジャッジ」も彼のトレードマークでした。審判として順調なキャリアを積む一方で、健康上の試練にも見舞われました。1989年には遠征先でくも膜下出血を発症し、さらには翌1990年には眼窩底骨折の重傷を負うなど、生命や審判生命に関わる危機に直面しましたが、不屈の精神力でこれを乗り越え、再びグラウンドへと復帰を果たしました。

審判界でのリーダーシップ

1998年からはパシフィック・リーグの審判部を率いる審判部長の要職に就任。2001年までの4年間、リーグの審判組織の運営と後進の指導に尽力しました。2002年シーズンをもって長年の審判生活から引退。その後もプロ野球への貢献は続き、2010年までは審判指導員として、若い審判たちの育成に携わりました。

家族と関連エピソード

藤本氏の実弟である小寺 昌治氏（旧名：藤本 昌治）もまた、兄と同じくパ・リーグの審判員でした。小寺氏も兄と同様に大きな声で情熱的なジャッジを行うスタイルでしたが、利き腕は右利きであり、この点は兄と異なりました。また、藤本氏はプロ野球史に残る印象的な試合で球審を務めたことがあります。1998年7月7日にグリーンスタジアム神戸で行われたオリックス・ブルーウェーブ対千葉ロッテマリーンズ戦では、ロッテがプロ野球新記録となる17連敗を喫した試合でホームプレートの後ろに立っていました。

藤本典征氏は、選手としては不遇ながらも、審判としてプロ野球史にその名を刻んだ人物です。特に数少ない左利きの審判として、また多くの大舞台での正確かつ情熱的なジャッジは、多くのファンに記憶されています。

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