藤田辰三

日本の陸上競技界において、昭和初期にハードル走の選手として活躍した藤田辰三氏は、1908年（明治41年）5月19日にこの世に生を受けました。その生涯を閉じた時期については、残念ながら現在に至るまで明らかになっていません。

藤田氏は、現在の岡山県立津山中学校・高等学校の前身にあたる旧制津山中学校で青春時代を過ごし、陸上競技と出会ったと考えられます。その後、体育専門教育の重要拠点であった東京高等師範学校の体育科に進学し、専門的なトレーニングを積み重ねました。1932年（昭和7年）には同校を卒業しています。

特に1932年は、藤田氏の競技キャリアにおいて最も輝かしい年となりました。東京高等師範学校を卒業したこの年、彼は驚異的な記録を樹立します。5月14日に開催された日本学生陸上競技対校選手権大会の110メートルハードル走において、15秒0というタイムをマークしたのです。この記録は、当時の日本の陸上競技における最高記録、すなわち日本記録であったと同時に、日本学生記録をも塗り替える快挙でした。ハードル走という種目における日本のレベルを一気に押し上げる、記念すべき記録であったと言えます。

この突出した記録が偶然ではないことを証明するかのように、藤田氏は同年6月22日に行われた五輪選手送別大会でも、再び15秒0という同じタイムを記録しました。これは当時の日本記録に並ぶものであり、彼のコンスタントな高い実力と、大舞台での強さを示唆するものでした。

これらの目覚ましい成績が認められ、藤田辰三氏は1932年にアメリカ合衆国で開催された第10回夏季オリンピック、ロサンゼルス大会の日本代表選手団に選出されました。この時期、彼は東京文理科大学にも在籍しており、学生アスリートとしてオリンピックという世界の舞台に挑むことになります。出場種目は、彼の得意とする男子110メートルハードル走でした。

ロサンゼルスオリンピックでは、世界のトップレベルのハードラーたちと競り合いました。予選を通過し、準決勝に進出しましたが、残念ながら決勝進出は叶わず、準決勝で敗退という結果に終わりました。しかし、当時の日本の陸上競技界にとって、国際舞台での挑戦そのものが大きな意義を持つ時代であり、藤田氏の出場は日本のハードル走のレベル向上に向けた貴重な経験となりました。

オリンピック出場後、藤田辰三氏がどのような活動を続けたのか、また、いつ、どのような状況でその生涯を閉じたのかについては、公に利用可能な情報源からは明らかになっていません。ハードル選手として、日本記録樹立とオリンピック出場という輝かしい実績を残した彼の功績は、日本の陸上競技史に刻まれていますが、その後の人生は歴史の表舞台からは姿を消したままとなっています。没年不明という事実は、彼の晩年に関する情報の乏しさを物語っています。

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