藪の中の黒猫

藪の中の黒猫：怨霊と武士の宿命が交錯する怪奇劇

1968年2月24日、新藤兼人監督によって世に送り出された映画『藪の中の黒猫』。平安時代を舞台に、凄惨な事件をきっかけに怨霊と化した女性と、宿命に翻弄される武士の物語を描いた作品です。1968年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されましたが、同映画祭で発生した事件の影響により、残念ながら受賞には至りませんでした。

物語の始まり：凄惨な事件と黒猫

物語は、武士の台頭が始まった平安時代から幕を開けます。一団の野武士が農家を襲撃し、女性たちを惨殺、家を焼き払うという残虐な事件が発生します。その惨劇の現場に、家猫であった黒猫が佇み、死体の血を舐めるという衝撃的なシーンが描かれます。

羅城門の怪異：繰り返される悲劇

それから数年後、都の羅城門付近で、かつての野武士の頭目であった武将が、事件の被害者と瓜二つの女性たちに出会います。妖艶な女性たちに誘われ、屋敷に招かれた武将は、そこで命を落とします。その後、羅城門を通る武将たちが次々と謎の死を遂げるという怪異が発生し、都に暗い影を落とします。

頼光と藪銀時：妖怪退治の使命

帝の命を受けた源頼光は、羅城門の妖怪退治を、東国の夷敵を討伐した経験を持つ武士・八に委ねます。頼光は八に「藪銀時」という名を授け、重責を託します。出世の喜びもつかの間、故郷に戻った銀時は、家が焼け落ちているのを目の当たりにします。それは、かつて野武士に襲われた彼の生家だったのです。近所の者から事件の一部始終を聞いた銀時は、両親の最期を知るも、その真相は闇の中にとどまります。

妖艶な化け猫：愛と呪縛

妖怪退治に臨んだ銀時は、両親に瓜二つの女性たちに動揺を隠せません。妖怪と断じながらも、夜な夜な彼女たちのもとに通うようになります。しかし、七日間の契りを交わした後に、若い女は消え去ってしまいます。残された中年女から、衝撃の事実が明かされます。彼女たちは、事件の犠牲者となった女性たちが化け猫と化した姿であり、冥界の掟に従い、侍を狩ることで現世に留まっていたのです。愛ゆえに掟を破った若い女は、地獄へと送還されたのでした。

最期の決戦と悲しい結末

妖怪退治の成果が出ないことに業を煮やした頼光は、銀時に最後通牒を突きつけます。銀時は、化け猫である中年女と対峙し、激闘の末、片腕を切り落とします。化け猫の腕を見た頼光は、世間に知らしめるために、銀時に堂籠りを命じます。しかし、お堂で銀時は、帝の使いを装った化け猫に騙され、腕を取り返されてしまいます。銀時は化け猫を追いかけますが、焼け落ちた生家で息絶えるのでした。

キャストとスタッフ

本作には、中村吉右衛門、乙羽信子、佐藤慶ら、錚々たる俳優陣が出演しています。監督・脚本は新藤兼人、撮影は黒田清己、音楽は林光など、スタッフも豪華な顔ぶれです。

まとめ：人間の業と運命の残酷さ

『藪の中の黒猫』は、怨霊の怒り、人間の業、そして避けられない運命の残酷さを描いた、新藤兼人監督の代表作の一つと言えるでしょう。美しい映像と、心に深く突き刺さる物語は、観る者の心を強く揺さぶります。平安時代の怪異と、現代社会に通じる人間の業が複雑に絡み合い、深い余韻を残す作品です。

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