血の稜線の戦い

血の稜線の戦い（英語: Battle of Bloody Ridge）は、朝鮮戦争中の1951年 8月18日から開始された、国連軍と北朝鮮軍による戦闘です。この戦いは、特に983高地を巡る激しい攻防戦として知られています。血の稜線という名称は、この高地での戦闘で多くの出血を強要された状況から、アメリカの星条旗新聞の記者が名付けました。

戦闘の背景

1951年当時、アメリカ軍第10軍団は、休戦交渉の焦点であった中東部戦線を担当していました。彼らは華川ダムから亥安盆地南側に沿って1019高地に至る新カンザス線を防御していましたが、亥安盆地が戦線の中央部に大きな湾曲部を形成し、防御の脆弱点となっていました。この問題を解消するため、アメリカ軍は段階的な作戦を展開し、7月26日には第2師団第38連隊が大愚山（1178高地）を占領しました。この大愚山は亥安盆地西側の最高点であり、後の作戦の重要な足がかりとなりました。

しかし、梅雨の影響で一時作戦は中断。雨季明けの8月中旬に再開されました。この時、アメリカ軍第10軍団は、韓国軍第7師団を華川ダム北側に、アメリカ軍第2師団を亥安盆地南側に配置し、韓国軍第8師団を瑞和渓谷の防御に当たらせました。さらに、韓国軍第5師団とアメリカ軍第1海兵師団を予備としていました。対する北朝鮮軍は、第5軍団を華川ダム北側に、第2軍団を亥安盆地北側に、第3軍団を南江付近に配置していました。

8月14日、バンフリート将軍は、第10軍団にクリッパー作戦（Operation Creeper）を実行させると同時に、亥安盆地西側の983高地の攻撃を承認しました。この作戦は、天候とアメリカ軍第5空軍の支援を最大限に利用すること、そして韓国軍部隊を運用しつつ、クリッパー作戦との連携を図ることを強調しました。

戦闘の経過

北朝鮮軍は、2ヶ月間の膠着期間を利用して強力な防御線を構築していました。983高地は、文登里と沙汰里渓谷を横切る8キロの稜線の主峰で、南側が急傾斜であり、北朝鮮軍にとって有利な地形でした。また、この高地からアメリカ軍第2師団の防御地域が瞰制されるため、同師団にとっては非常に重要な地点でした。

北朝鮮軍は、983高地に第5軍団第12師団第1連隊を、940高地から773高地に第2軍団第27師団第14連隊を配置し、数百個の掩体壕と交通壕、地雷原を構築し、徹底的な防御体制を敷いていました。

当初、アメリカ軍は韓国軍第5師団第36連隊を投入して983高地の攻撃を試みましたが、激しい砲撃と地雷原により頓挫しました。8月18日、攻撃準備射撃後、第36連隊は攻撃を開始しましたが、北朝鮮軍の抵抗は激しく、応急防御に移行しました。その後、友軍の支援砲撃を受け、夜間には200門の砲を集中して砲撃を行いましたが、地形は変化したものの、北朝鮮軍の防御陣地は依然として堅固でした。翌19日、第3大隊が731高地を占領、20日には773高地を占領しました。しかし、940高地は北朝鮮軍の激しい抵抗に遭い、攻略に苦戦しました。21日夕方になってようやく第2大隊が940高地を確保しました。

22日、第3大隊が983高地の後方斜面から奇襲を仕掛け、一時的に983高地を占領しましたが、その夜から北朝鮮軍の激しい逆襲が始まり、26日には983高地を奪還されました。

アメリカ軍第2師団は、消耗した韓国軍第36連隊の支援のために、第9連隊を投入しましたが、激しい戦闘により940高地と773高地を失い、戦況は泥沼化しました。8月28日、韓国軍第5師団とアメリカ軍第1海兵師団が投入され、戦線は拡大し、9月3日には773高地、4日には940高地、5日には983高地を奪還しました。これらの高地は、北朝鮮軍がすでに撤退していたため無血占領となりました。

戦闘の結果と影響

血の稜線の戦いは、数週間にわたる激しい戦闘の末、国連軍が勝利を収めました。しかし、この戦闘は、双方に大きな損害を与え、特に983高地の地形的な要因と、北朝鮮軍の強固な防御陣地が、戦闘を非常に困難なものにしたことが明らかになりました。また、この戦いでは、韓国軍の戦闘能力の向上が示されるとともに、アメリカ軍による戦術的な支援の重要性が再確認されました。

この戦いの後も、朝鮮戦争の戦況は依然として膠着状態が続き、休戦協定が結ばれるまで、激しい戦闘が続きました。血の稜線の戦いは、朝鮮戦争における重要な戦いの一つとして、その名が刻まれています。

もう一度検索