行政手続法 (アメリカ合衆国)

アメリカ合衆国行政手続法 (Administrative Procedure Act, APA)

アメリカ合衆国行政手続法（Administrative Procedure Act）は、略称をAPAといい、「アドミニストレイティブ・プロシジャー・アクト」と読まれます。日本語では一般的に「行政手続法」と訳されます。これは、アメリカ合衆国の連邦法であり、連邦政府の各行政機関が、規則や規制を策定したり、行政上の決定を行ったりする際の手続きを統一的に定めた法律です。

制定と重要性

APAは、1946年6月11日に施行されました。連邦法第79回議会制定法第404号として、議会議事録第60巻237ページに収録されています。本法は、その制定以来、アメリカ連邦政府の行政活動における透明性、公平性、効率性を確保するための根幹をなす法律として機能してきました。

行政法分野の権威であるHickmanとPierceは、共著『Federal Administrative Law: cases and materials』において、APAがアメリカ合衆国の行政法の中で最も重要な部分を占め、その役割は行政法の「憲法」とも言うべきものであると指摘しています。これは、行政機関の権限行使に対する司法的審査の枠組みを提供し、国民が政府の決定プロセスに参加する機会（例えば、規則案に対する意見提出）を保障するなど、行政と市民の関係における基本的なルールを定めているためです。

APAが定める主要な手続きには、広く意見を求めるための「告知と意見募集（notice and comment）」による規則制定手続きや、特定の当事者の権利義務を決定する際の「裁決手続き」などがあります。これらの手続きを通じて、行政機関の恣意的な判断を防ぎ、手続きの適正さを図ることが目指されています。

近年の訴訟事例

APAの規定は、政府機関の行為に対して訴訟が提起される際の重要な根拠となります。近年も、政府の主要な政策や規則変更を巡って、APA違反が問われる事例が複数発生しています。

例えば、2022年には、アメリカ合衆国市民権・移民局（United States Citizenship and Immigration Services, USCIS）が、ある移民投資家プログラムに関する規則を変更・公布したことに対し、APAの手続きに違反するとして訴訟が提起されました（Behring Regional Center LLC 対 Mayorkas 他）。この訴訟では、規則変更のプロセスがAPAに適合していたかどうかが争点の一つとなりました。

また、2022年にバイデン政権が試みた学生ローン免除計画も、APA違反を理由とする訴訟に直面しました。この計画は、特定の連邦学生ローン借り手に対し、最大20,000ドルの債務を免除するというものでした。しかし、この計画の実施方法について、APAに定められた告知と意見募集の手続きが適切に行われなかったことなどを主張する借り手2名および複数の共和党州が政府を訴えました。この訴訟は、2023年時点ではまだ最高裁判所まで至っていませんが、APAの規則制定手続きに関する政府の義務の範囲が改めて問われる事例として注目されています。

これらの事例は、APAが単なる技術的な手続き法に留まらず、連邦政府機関による実質的な政策決定やその執行に対する重要な法的チェック機能として、現代においても活発にその役割を果たしていることを示しています。国民や関係者は、APAが定める手続きに違反があるとして、政府の行為の適法性を司法の場で争うことが可能です。

まとめ

アメリカ合衆国行政手続法は、連邦政府機関の活動を規律する上で不可欠な法律です。その制定以来、行政の透明性と公正性を高めることに貢献し、現代においても政府機関の行為が適法に行われているかを問うための重要な手段となっています。行政法における「憲法」とも称されるその役割は、今後もアメリカの統治機構において変わらず重要な意味を持ち続けると考えられます。

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