行方均 (音楽評論家)

行方 均（なめかた ひとし、1951年6月29日 - 2020年3月13日）は、宮城県仙台市出身の日本の音楽プロデューサー、音楽評論家として知られる人物です。

キャリアと功績

東京都立西高等学校を卒業後、早稲田大学政治経済学部にて学びました。1976年に旧東芝EMIに入社し、そのキャリアをスタートさせます。彼の名前が日本のジャズ界で広く知られるようになったのは、1988年にブルーノートの当時の社長であるブルース・ランドヴァル氏、プロデューサーのマイケル・カスクーナ氏らの協力を得て、社内に新たなジャズレーベル「サムシンエルス」を設立したことに始まります。

サムシンエルスレーベルでは、行方氏主導のもと、国内外のアーティストによる200タイトル近い作品が生み出されました。これらの作品の多くは、本家ブルーノートを通じて海外でもリリースされ、高い評価を得ています。特に、軽井沢で録音されたゴンサロ・ルバルカバのアルバム『ラプソディア』（1992年発表、1993年発売）は、グラミー賞ノミネートという快挙を達成し、サムシンエルスレーベルの名声を高めました。彼はこのレーベルでの活動を通じて、ブルーノートを中心とした多数のジャズ作品や有望なミュージシャンを日本に精力的に紹介し、国内のジャズ市場の開拓と発展に多大な影響を与えました。

ジャズ分野での活動と並行して、1997年から2013年にかけては、世界的ロックバンド、ビートルズの国内盤発売に関する統括責任者も務めました。これは彼のキャリアにおけるもう一つの重要な側面です。

多様な活動

レコードプロデュースや解説執筆活動に加え、行方氏はメディアの世界でも積極的に活動しました。2010年から2016年3月まで、衛星ラジオミュージックバードのJAZZチャンネル番組「プロファウンドリー・ブルー」でパーソナリティを務めました。また、2014年4月からは、JFN系FMの全国ネット番組「A・O・R -Jazz & Vocal Night-」にレギュラー出演し、選曲と解説を担当。「ジャズ100年の100曲」キャンペーンを推進するなど、ジャズの普及に努めました。2016年4月から2018年3月には、同じくミュージック・バードにて大型番組「ジャズ100年の名曲名演500時間」の企画・監修に携わりました。

彼は経営者としても経験を積み、2012年にはEMIミュージックジャパンの最後の代表取締役会長に就任し、自らを「ラストエンペラー」と称したエピソードが残っています。その後、ユニバーサルミュージックの副社長を経て、2014年に独立し、株式会社NAMESを設立しました。

「雑木林進」という別名義も使用し、音楽評論家、文筆家としても数多くの著作や監修書を手がけました。ブルーノートに関する書籍は特に有名で、『ブルーノート再入門』、『21世紀版ブルーノート・ブック』、『ブルーノート年代記』などがあります。ジャズ史や著名アーティストに関する解説書、監修書も多数あり、ジャズリスナーにとって貴重な情報源となっています。また、リー・モーガンやビル・エヴァンス、ブルーノート・レコードに関するドキュメンタリー映画の日本語字幕翻訳・監修も手がけました。

レコードプロデュースの代表作としては、ロイ・ハーグローヴやラルフ・ピーターソンの初期作品、ゴンサロ・ルバルカバのワールド・デビュー作、大西順子や松永貴志といった日本人アーティストのデビュー作など、多岐にわたります。スイングジャーナル誌のジャズディスク大賞金賞や録音賞など、多くの受賞作品をプロデュースしました。近年では、ディスクユニオンのジャズレーベル「SOMETHIN'COOL」からの作品も手掛けています。

コンサートプロデュースとしては、かつての「マウント・フジ・ジャズ・フェスティバル」（1986年～1996年）に携わったほか、独立後の2016年以降はディスクユニオン主催の「JAZZ@HALL」シリーズのプロデュースも行いました。

晩年と死去

2020年5月には、初のビートルズに関する著書『ビートルズは終わらない』が出版されました。しかし、そのわずか数ヶ月前の2020年3月13日、急性骨髄性白血病のため、享年68歳でこの世を去りました。

行方均氏は、レコードプロデューサー、音楽評論家、経営者、文筆家、メディアパーソナリティと、様々な顔を持ち、その活動を通じて日本のジャズシーン、そして広くは音楽業界に計り知れない貢献をしました。特にブルーノート及びサムシンエルスを通じたジャズの紹介・育成、そしてビートルズに関する活動は、多くの音楽ファンに記憶されています。

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