被害者学

被害者学の概要

被害者学（ひがいしゃがく、Victimology）とは、犯罪被害に焦点を当てて犯罪学を探求する学問領域です。歴史的に、犯罪が発生した際の視点は主に犯罪者に向けられ、国家が犯罪者を処罰することが重視されてきました。被害者の存在や状況はあまり考慮されておらず、応報刑や教育刑といった概念が広まる中で、被害者の視点は疎外されることが多かったのです。

しかし、被害者学は被害者にも十分な配慮を行い、その救済を目的とする新しい視点を提供しようとしています。加えて、被害者の視点から刑事司法を再構築し、犯罪を防止するための戦略の一環としても機能することが求められてきました。また、ハルシネーションや偏見を避け、被害者自身を研究対象とすることが重要視されます。

被害者学の成立と歴史

従来の犯罪学は「人はなぜ犯罪を犯すか」という問いに焦点を当てていました。このため、犯罪者に対する研究が多く行われ、被害者の立場はあまり考慮されませんでした。しかし、1948年にハンス・フォン・ヘンティッヒが犯罪者と被害者の関係に光を当て、被害者学の概念を初めて提唱しました。彼は、被害者が犯罪に巻き込まれる理由を探ることで、犯罪の理解が深まると考えました。

その後も、アンリ・エレンベルガーやメンデルソーンといった学者も、被害者の側面を研究し基盤を築く中で、初期の被害者学は「なぜ被害にあうか」から「どのような人が被害にあうか」という視点へと進化しました。この変遷により、被害者の有責性を問う理論や、被害者の属性分析などが行われるようになりましたが、これらには批判が寄せられることもあります。

特に、被害者に責任を負わせるアプローチには「被害者バッシング」との批判があり、社会学的な視点の欠如も指摘されました。これを受け、被害者学は「応用被害者学」へとシフトし、被害者の救済やその背景に関する政策論に重点を置くようになっています。現代では、被害者支援のための研究や政策立案が進められています。

日本における被害者学の沿革

日本において被害者学が広まったのは、1958年にメンデルソーンの論文が紹介されたことがきっかけです。法医学の専門家たちがこれを受け入れ、東京医科歯科大学でシンポジウムが開催されることで、日本の学術界においても本格的な研究が始まりました。

1990年には日本被害者学会が設立され、その後1993年には犯罪被害者相談室が設立されました。このカウンセリング機関の設置により、犯罪被害者への直接的な支援体制が整備されました。初期は医療面からのアプローチが主流でしたが、次第に法律学や社会科学など多様な分野の研究者が関与するようになり、被害者政策の一環としても重要性が増しています。

学問的な広がり

近年では、犯罪被害者の心理的・社会的支援が一段と重要視されています。例えば、支援者の視点から被害者がどのように感じ、回復するのかを考えることが求められています。また、具体的な問題解決に向けたアプローチや、政策提言が行われるようになったため、さらなる発展が期待されています。このように、被害者学は犯罪学の新たな展望を切り開く学問として、社会における被害者の理解と支援を促進する役割を担っています。

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