裁かれるは善人のみ

ロシア映画『裁かれるは善人のみ』：権力と個人の壮絶な闘い

2014年、ロシアで公開されたアンドレイ・ズビャギンツェフ監督による映画『裁かれるは善人のみ』(原題：Левиафан)は、小さな港町を舞台に、巨大な権力とそれに抗う個人の悲劇を描いた社会派ドラマです。国際的に高い評価を受け、数々の映画祭で受賞・ノミネートを果たした、ロシア映画史における重要な作品と言えるでしょう。

物語の核心：権力と個人の対決

主人公は、自動車修理工場を営むコーリャ。彼は妻と、幼い息子と、質素ながらも幸せな生活を送っています。しかし、その平穏な日々は、市長による土地買収計画によって打ち砕かれます。再開発事業という名のもと、コーリャの土地は強引に奪われようとしています。

コーリャは、かつての友人である弁護士をモスクワから呼び寄せ、市長と対抗します。しかし、市長の権力は絶大で、法や正義は彼の前に全く通用しません。彼は、地元警察や行政機関の癒着、そして、自分の家族や友人をも巻き込む巨大な権力の網の目に苦しめられます。

圧倒的なリアリティと、社会への鋭い批評

この映画は、単なる権力闘争の物語ではありません。ロシア社会の闇、特に地方における腐敗や不正を、容赦なく描き出しています。圧倒的なリアリティと緻密な構成により、観客はコーリャの絶望と怒りを、肌で感じることになります。

ズビャギンツェフ監督は、美しい自然と、荒廃した町並みを対比させることで、ロシア社会の矛盾を浮き彫りにします。一見穏やかな港町は、権力の影に潜む不正と、人間の弱さ、そして、その矛盾に翻弄される人々の悲しみで満ち溢れています。

登場人物：それぞれの葛藤

コーリャ役のアレクセイ・セレブリャコフを始め、主要キャストは、それぞれが複雑な人間性を持ち、観客に強い印象を与えます。

コーリャの妻リリアは、夫の苦悩を目の当たりにしつつも、現実的な選択を迫られます。彼女の葛藤は、この物語における女性の置かれた立場を象徴的に表現しています。

市長役のロマン・マディアノフは、冷酷で狡猾な権力者の姿を演じきっており、まさに悪役としての存在感を放っています。

その他にも、コーリャの友人や周囲の人々が、それぞれの立場からこの事件に巻き込まれ、物語に深みを与えます。

国際的な評価と受賞歴

『裁かれるは善人のみ』は、公開後、世界中で高い評価を獲得しました。第67回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞し、ゴールデングローブ賞外国語映画賞、ロンドン映画祭最優秀作品賞など、数々の国際映画祭で受賞・ノミネートされました。

これだけの賞を受賞したことは、この映画の芸術性と社会的な重要性を証明しています。それは、単なるエンターテイメント作品ではなく、社会への警鐘であり、現代社会における普遍的なテーマを問いかける作品として、高く評価されていると言えるでしょう。

見どころ

・圧倒的なリアリティと社会への鋭い風刺

・複雑で魅力的な登場人物たち

・美しい自然と、荒廃した町並みの対比

・国際的に高い評価を受けた、ロシア映画史に残る傑作

『裁かれるは善人のみ』は、単なる映画ではなく、ロシア社会、ひいては現代社会の闇を映し出す、忘れがたい作品です。

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