裸足の医者

裸足の医者

裸足の医者（はだしのいしゃ）とは、1960年代から1980年代にかけて中華人民共和国の農村部で活動していた、医療訓練を受けた農民のことです。彼らは正式には「郷村医生」と呼ばれていました。

概要

裸足の医者の主な目的は、都市部に偏っていた医療資源を農村地域にも行き渡らせることでした。都市部の医師が農村部に定住することを避ける傾向があったため、農村部では十分な医療サービスが提供されていませんでした。そこで、農村の住民の中から基本的な医療知識と応急処置の訓練を受けた人材を育成し、地域医療を担わせる必要があったのです。

裸足の医者は、基本的な衛生指導、予防医療、家族計画の推進、一般的な病気の治療など、幅広い活動を行いました。彼らの名称は、中国南部の農村部で、田畑で裸足で働く農民が多かったことに由来します。

歴史的背景

1930年代には、農村復興運動の一環として、農村部で基本的な医療知識を持つ人材を育成する取り組みがすでに始まっていました。この流れを受け、1965年6月26日に毛沢東が発表した指示の中で、当時の医療制度が都市部に偏っていることが批判され、農村部の人々の健康により重点を置いた制度が必要だと訴えられました。この演説をきっかけに、中国の医療政策は大きく転換し、1968年には「裸足の医者」プログラムが国家政策として正式に採用されました。

このプログラムは「農村協同医療系統（RCMS）」と呼ばれ、地域住民の参加を促しながら農村部の医療サービスを提供することを目指しました。裸足の医者は文化大革命の重要な要素となり、西洋医学を学んだ医師が中心だった保健省の影響力を大きく低下させることになりました。

1975年末には、中国全土で150万人以上の裸足の医者が活動していました。彼らは農村部の医療を支える上で、非常に重要な役割を果たしていたと言えます。

しかし、文化大革命が終結し、改革開放政策が始まると、裸足の医者に対する政治的な支持は失われていきました。1980年代には、それまでのシステムが崩壊し、農村部では再び医療危機が深刻化することになりました。

その他の地域での展開

日本統治下の台湾でも、「台湾医術規則」の附則に「現地医師」という制度があり、裸足の医者に似た役割を担っていました。1941年には「台湾医師考試規則」が制定され、現地医師は「乙種医師」と名称を変えています。

関連項目

コミュニティ・ヘルス・ワーカー
文化大革命

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