西備名区

西備名区（せいびめいく）

西備名区は、江戸時代後期に著された備後地方の貴重な郷土史書です。この書は、馬屋原重帯によって、備後地域の詳細な情報が記されたものです。重帯は1762年に生まれ1836年に亡くなりました。彼は福山藩領の中心地である現在の広島県福山市駅家町向永谷の庄屋であり、その職業から地域の地理や歴史に関する深い理解を持っていました。

書の概要

西備名区には、備後地方の詳細な地理、歴史、民俗に関する情報が、それぞれの町や村を基にして記述されています。特に、各地域の現状や人物に関する情報が詳細に示されており、後の郷土史書の基盤となりました。『福山志料』などの資料は、彼の作品を参考にして作成されたとされています。この書は、他の伝写本と異なり著者の自筆であり、完全な形で保存されています。故に、備後地域に関する貴重な史料として位置づけられ、1966年には広島県の指定重要文化財に指定されました。

成立の経緯

西備名区がいつ着手されたのかは不明ですが、初めての草稿は重帯が43歳のとき、1804年に成立したとされています。その後も改訂が行われ、清書本としてまとまりました。著者は、長い期間をかけて情報を集め、書き記したことが明らかになっています。郷土史家の濱本清一によれば、この著作には編集に30～40年がかかったと推測されています。

著作の動機

重帯は家系の衰退を背景に、先祖の足跡を追い求め、庶民の中に立派な先祖を見つけ出したと述べています。このような動機から、著作が生まれたことで、封建的な身分制度に対する疑問も浮かび上がり、その歴史を明らかにすべく努力したことが評価されています。

内容と構成

西備名区は、全90巻34冊から構成され、多くの引用文献や地域の言い伝えも含まれています。内容は各村落の記録だけでなく、俚語や民間伝承なども広く収集され、著者自身が疑わしいと思うものも掲載することで、読者に委ねる姿勢が見受けられます。著作の目次には、巻ごとの詳細な内容が示され、それぞれの地域に関する情報が盛り込まれています。具体的には、国や郡の名称、歴史的な人物について、詳細に網羅されています。

作品の評価

この書は、明治時代以降の郷土史家による研究や著作に多大な影響を与えました。著者は、福山藩領内の情報が豊富であった一方で、周辺地域については情報が限られていることを認識していました。郷土史家・濱本清一は、著者が都合の良い情報のみを選び取らず、古伝承や伝説をも忠実に記録したことを高く評価し、後世に重要な資料を残したと評しています。

将来への影響

西備名区の存在は、備後地方の歴史理解に寄与するものであり、地域の文化や風俗、さらには人々の暮らしについて深く知る手がかりを提供しています。特に、備後地方独自の歴史感覚を伝え続けるこの書は、今後も研究の対象となり続けるでしょう。

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