西川俊夫

西川 俊夫（にしかわ としお）氏は、1962年に日本の長野県に生まれた著名な有機化学者です。現在、名古屋大学大学院生命農学研究科の教授として教育・研究活動の第一線で活躍しています。彼の研究は、複雑な天然有機化合物の合成化学に焦点を当てており、特にその中でも、極めて毒性が高く、化学構造が複雑であるため合成が非常に困難とされてきたフグ毒、テトロドキシンの不斉全合成を達成した業績は、世界の有機合成化学界に大きなインパクトを与えました。

経歴

長野県岡谷市で育った西川氏は、長野県諏訪清陵高等学校を卒業後、静岡大学理学部化学科に進学し、化学の基礎を学びました。1985年に大学を卒業後、さらなる研究への探求心から名古屋大学大学院に進み、農学部食品工業化学科の博士課程前期課程を1987年に修了しています。大学院修了後、短期間ではありますがサッポロビール株式会社に勤務しました。しかし、研究の世界への思いが強く、1988年には名古屋大学農学部に助手として着任し、本格的に研究者のキャリアをスタートさせました。助手として研究に邁進する傍ら、1995年には名古屋大学から農学博士の学位を取得しています。

研究者としての視野を広げるため、1999年にはドイツ連邦のStuttgart 大学有機化学研究所へGuest Scientistとして留学し、約一年間にわたり（2000年6月まで）国際的な環境で研究経験を積みました。帰国後、2004年には名古屋大学大学院生命農学研究科の助教授（当時）に昇任。さらに、2008年には同研究科の教授へと昇進し、現在に至るまで、後進の指導にあたるとともに、最先端の有機合成化学研究を推進しています。

研究内容と業績：テトロドトキシンの不斉全合成

西川教授の研究室は、生物活性を持つ複雑な天然物の全合成、特に望む光学活性を持つ化合物のみを選択的に作り出す不斉合成を得意としています。その中でも最も特筆すべき成果は、フグや一部の両生類などが持つ強力な神経毒であるテトロドトキシン（TTX）の不斉全合成の達成です。テトロドトキシンは、その独特な分子構造と高い毒性、そして生体内のナトリウムチャネルへの特異的な作用から、基礎研究や医薬品応用の可能性を探る上で重要な物質ですが、その複雑さゆえに化学合成は極めて難易度が高い課題でした。

西川教授らは、長年にわたる精力的な研究と独創的な合成戦略の開発により、天然に存在するテトロドトキシンと同じ光学活性を持つ化合物を、完全に化学的な手法のみで合成することに成功しました。この成果は、複雑な天然物分子を自在に操る有機合成化学技術の極限を示すものとして、世界中の化学者から賞賛されました。単に物質を作り出すだけでなく、その合成経路の開発過程で生み出された新しい反応や合成手法は、有機合成化学全体の発展に大きく貢献しています。

受賞歴

西川教授の卓越した研究成果は、国内外の様々な賞によって高く評価されています。2001年には、その先駆的な研究計画に対して有機合成協会『研究企画賞』が贈られました。同年、国際的な舞台である第18回国際ヘテロ環化学会議（18th International Congress of Heterocyclic Chemistry）では、発表内容が高く評価されポスター賞を受賞しています。翌2002年には、有機合成化学分野で顕著な研究成果を挙げ、将来を嘱望される研究者に贈られる有機合成協会奨励賞を受賞し、その実力を確固たるものとしました。さらに、2004年には若手研究者を対象とするSynlett Assistant Professor Awards 2004を受賞するなど、国際的な認知度も高まりました。2006年には、アジア地域の有機化学分野への貢献が認められ、Interantional Conference on Cutting-Edge Organic Chemistry in AsiaにおいてACP lecture ship Awardを受賞しています。これらの受賞歴は、西川教授が有機合成化学の分野における世界的なリーダーの一人であることを示しています。

現在も、名古屋大学の教授として、革新的な有機合成手法の開発や、新しい機能を持つ分子の創製を目指す研究を精力的に続けており、有機化学の発展と次世代の研究者育成に貢献しています。テトロドトキシン全合成に代表される彼の挑戦的な研究姿勢は、多くの研究者に刺激を与え続けています。

もう一度検索