西音松

西音松（にし おとまつ）

西音松、生年1897年1月1日 - 没年1983年1月1日）は、日本の著名な和食料理人で、その名は多くの人々に知られています。彼は西園寺公望によるお抱え料理長を務め、さらに歴代の首相たち、具体的には佐藤栄作や池田勇人の料理番としても活躍しました。その卓越した技術と献身的な姿勢から「食の伝説」や「伝説の料理人」と称され、特に「西の横綱」という称号も得ています。彼の父は西健一郎で、7人兄弟の中の4男として生まれました。

来歴

西音松は、三重県伊賀に生まれました。彼が料理の道に入ったのは14歳の時で、京都の西陣にある料亭「万治家」での修行が始まりました。その後、南禅寺近くの料亭「瓢亭」に移り、20年の長きにわたり包丁を握り続けました。音松は当時を振り返り、時には仕事に疲れて逃げ出したことや、包丁一本で満州の大連まで飛ぶこともあったと語っています。

一方で、瓢亭の14代当主、高橋英一は、幼少期の音松との思い出を語り、彼に強く叱責された記憶を残しています。1931年、西園寺公望のお抱え料理長に任命されてからは、日々異なる献立を用意し続けました。特に西園寺の朝食には厳格なこだわりがあり、彼はその要求に応えるために2時間もかけてご飯を炊くこともありました。

音松は料理に対する姿勢を常に大切にしており、彼が提供した料理は必ず厳格な基準に基づいていました。後の時代においても、彼は「食の伝説」として名声を博し、料理人番付では「西の横綱」としてその名を刻むことになりました。

料理に対する姿勢

音松の料理は地味でありながらも深い味わいがありました。彼は自ら「よそに地味で飾り立てる気はない」と言い切り、味そのものにこだわりました。「見えるところに手をかけるのは意味がない」と強調し、盛り付けや食材選びに対しても一貫した哲学を持っていました。音松の料理に対するアプローチは、余りものを使い切ることや、手間を惜しまない姿勢があったため、料理人としての道を歩む者にとってのガイドとなるものでした。

食材と季節感

音松は、料理における季節感を非常に重視しました。戦後、日本の食文化が変化する中で、音松は「季節のケジメがつかへん」と不安を漏らし、地方色が失われることを憂いていました。また、「あるものを使う」という教えを持ち、「今、目の前にあるもので美味しい料理を作るのが料理人だ」と教え子たちに伝え続けました。

音松の料理は、その理念を持ち続けながら、若い料理人たちを厳しい視点で指導する姿勢があり、彼のもとで多くの料理人が成長を遂げました。若者に対しては、教えを受けるだけではなく、自分自身で苦労し、味を理解することの重要性を説きました。彼の考えは、料理に必要な知識を「教えてもできるものではない」として、自らの舌で覚えさせることにありました。

音松は、数々の業績を残しながら常に謙虚さを失わず、1983年1月1日にこの世を去りました。彼の影響を受けた料理人たちは今でも彼の教えを胸に、音松の残した味と哲学を受け継いでいます。料理は単なる技術にとどまらず、心をひとつにするものであるという音松の教えは、多くの人にとって今なお生き続けています。

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