要注意歌謡曲指定制度

要注意歌謡曲指定制度とは

要注意歌謡曲指定制度は、1959年に日本民間放送連盟（民放連）が定めた、放送に関する自主規制の内規です。これは、放送する歌謡曲が公序良俗に反したり、青少年に悪影響を与えたりするのを防ぐ目的で設けられました。

制度の概要

民放連は、10項目の審査基準を設け、これに抵触すると判断された楽曲を「要注意歌謡曲」として指定しました。指定を受けた楽曲は、放送を控える、メロディーのみを放送する、歌詞の一部を修正するなど、各放送局が自主的に対応していました。ただし、この制度はあくまで民放連の自主規制であり、法的な拘束力はありませんでした。また、NHKはこの制度を適用していませんでした。

制度の変遷

1983年、民放連は内規を改正し、要注意歌謡曲指定制度を廃止しました。ただし、それまでに指定された楽曲については、5年間の経過措置期間を設け、その効力を継続しました。この経過措置期間も1987年に満了し、「要注意歌謡曲一覧表」は消滅しました。

しかし、制度廃止後も、放送局間の情報交換の必要性から、民放連において懇親会が定期的に開かれていました。その後、この懇親会は自然消滅し、業界での不祥事などを理由に情報交換は民放連で行われなくなりました。なお、民放連の内部機構として「放送音楽事例研究懇談会」が設置されており、特定の楽曲の放送の適否について意見を求めることができるとされています。

現在の放送基準

現在の民放連「放送音楽などの取り扱い内規」では、放送音楽について、以下の項目を考慮することとしています。

人種、民族、国民、国家の誇りを傷つけるもの、国際親善関係に悪影響を及ぼすおそれのあるものは使用しない。
個人、団体の名誉を傷つけるものは使用しない。
人種、性別、職業、境遇、信条などによって取り扱いを差別するものは使用しない。
心身に障害のある人々の感情を傷つけるおそれのあるものは使用しない。また、身体的特徴を表現しているものについても十分注意する。
違法、犯罪、暴力などの反社会的な言動を肯定的に取り扱うものは使用しない。特に、麻薬や覚醒剤の使用などの犯罪行為を、魅力的に取り扱うものは使用しない。
性に関する表現で、直接、間接を問わず、視聴者に困惑、嫌悪の感じを抱かせるものは使用しない。
表現が暗示的、あるいは曖昧であっても、その意図するところが民放連放送基準に触れるものは使用しない。
放送音楽の使用にあたっては、児童、青少年の視聴に十分配慮する。特に暴力、性などに関する表現については、細心の注意が求められる。

制度への批判と影響

制度は、ガイドラインに過ぎず、強制力はなく最終判断は各放送局に委ねられていたが、業界ではいつの間にか失効していたことも周知されず、民放連が規制の主体と思いこまれていたと指摘されています。

北島三郎のデビュー曲『ブンガチャ節』は「キュキュキュー」の合いの手が「ベッドの軋みを連想させる」として放送禁止指定を受けたことや、網走番外地の事例を「いかにも放送禁止歌らしいエピソードだ」としています。

吉野健三は、網走番外地と同じくヤクザの曲である藤純子の『緋牡丹博徒』や北島三郎の『仁義』は審査されたが指定は受けなかったことから、制度の基準に疑問を呈しました。

また、『時には娼婦のように』や『後ろから前から』などの方が扇情的だが、それらの多くは指定から外れており、時代とともに緩和されてきた制度だが、指定され続けた『悲惨な戦い』や『大島節』はどれだけ贔屓目に見ても選曲や判断のバランスが悪く、本作が指定されるなら他にも同じ扱いをされる作品もあるはずだと疑問を呈しています。

要注意歌謡曲指定制度は、日本の音楽史における自主規制の象徴的な出来事として、現在でも語り継がれています。

もう一度検索