視覚誘導性自己運動感覚

視覚誘導性自己運動感覚（ベクション）

視覚誘導性自己運動感覚、通称ベクションは、実際には静止している状態にある人が視覚情報の影響を受けて、自身が移動しているかのように感じる現象です。この現象は1966年に著名な心理学者ジェームズ・ギブソンによって初めて報告されました。彼の研究は、私たちが視界から受け取る情報が外界の物体の形状や動きを認識するためだけでなく、自分自身の運動状態を理解するためにも重要であることを示しました。

この現象が引き起こされる条件

視覚誘導性自己運動感覚が生じやすい特定の条件があります。その一つが、中心視よりも周辺視に刺激を与えることで、周辺視野が効果的に働くことです。周辺視に焦点を当てたパターンを見せると、動いているような錯覚を引き起こすことがあるためです。また、具体的にはパターンが背景として知覚されることも、より強い効果を及ぼすとされています。さらに、自分が動く可能性があるという認識を持つことも、この感覚の発生に大きく寄与します。こうした条件が揃うことで、視覚情報はより強力に体の動きを感じさせるのです。

実例

トレイン・イリュージョン

日常生活の中で経験することがある「トレイン・イリュージョン」はこの現象の一つです。例えば、停車中の列車に乗っているときに、隣の列車が動き出すと、自分が乗っている列車も動いているように感じることがあります。このような視覚的な錯覚は、周囲の視覚情報が如何に我々の動的な感覚に影響を与えるかを示す良い例です。

VR酔い

近年では、バーチャルリアリティ（VR）体験でも視覚誘導性自己運動感覚が広く利用されています。特にヘッドマウントディスプレイを使用した際には、視界いっぱいに映像が広がり、実際には静止しているにもかかわらず自分が動いているような強い感覚を引き起こします。このため、VRを体験した後に倦怠感や不快感、さらには嘔吐といった「VR酔い」が生じることが多くなっています。

応用例

視覚誘導性自己運動感覚を応用した技術も存在します。例えば、高速道路では渋滞を緩和したり速度超過を防ぐために、発光体を用いた走光型視線誘導システムが導入されています。これにより、ドライバーが周囲の状況をよりよく認識できるようにしています。また、スパイダーマンやその他のアクション映画、あるいは「ガールズ&パンツァー」などのアニメでも、この現象が利用されており、視聴者に没入感を与える重要な表現技法となっています。

関連項目

視覚誘導性自己運動感覚は、錯視と深い関係があります。錯視は、視覚情報が脳にどのように処理されるかに影響を及ぼすため、視覚誘導性自己運動感覚の研究においても興味深い関連性が見受けられます。

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