認知的不協和

認知的不協和とは

認知的不協和とは、人が自身の認知（認識や信念）と矛盾する別の認知を抱えた状態、そしてその時に感じる不快感を指す社会心理学の用語です。この概念は、アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーによって提唱されました。

人はこの不快感を解消するために、矛盾する認知の重要性を変更したり、過小評価したり、自身の態度や行動を修正するなど、様々な方法を試みると考えられています。

認知的不協和の例

認知的不協和を説明する有名な例として、イソップ物語の「キツネとすっぱい葡萄」の逸話があります。手の届かない葡萄を「どうせあれは酸っぱい葡萄だ」と考えることで、手に入らないという事実から生じる不快感を軽減しようとする心理を表しています。

喫煙者の例もよく用いられます。「タバコを吸う」という行為（認知1）と「タバコは健康に悪い」という知識（認知2）の間には矛盾が存在します。この矛盾を解消するために、喫煙者はタバコの危険性を否定したり、喫煙のメリットを強調したり、あるいは禁煙を試みたりします。

フェスティンガーの仮説

フェスティンガーは、認知的不協和に関して以下の仮説を提唱しました。

1. 不協和の存在は、それを低減または除去しようとする圧力を生み出す。
2. 不協和を低減させる圧力の強さは、不協和の大きさに比例する。

つまり、認知の矛盾が大きいほど、人はそれを解消しようとする力が強くなるということです。

認知的不協和の解消方法

認知的不協和を解消する方法はいくつか存在します。

認知の変更: 矛盾する認知の一方、または両方を変更する。
認知の重要性の変更: 矛盾する認知の一方、または両方の重要性を低く評価する。
新たな認知の追加: 矛盾を弱めるような新たな認知を追加する。
行動の変更: 矛盾する認知と一致するように行動を修正する。

喫煙者の例で言えば、「タバコは健康に悪い」という認知を「タバコはストレス解消になる」という認知で打ち消したり、「自分はまだ若いから大丈夫」と考えたりすることが、認知的不協和の解消に繋がります。しかし、ニコチン依存がある場合、喫煙者は禁煙という行動を取ることが難しいため、認知の方を修正する傾向があります。

フェスティンガーの実験

フェスティンガーは、認知的不協和を実証するために、以下のような実験を行いました。

1. 被験者に退屈な作業をさせる。
2. 被験者の一部には高額の報酬を、別の一部には少額の報酬を支払い、次の被験者に「この作業は楽しい」と伝えるように指示する。

実験の結果、少額の報酬しか与えられなかった被験者の方が、高額の報酬を与えられた被験者よりも、作業が楽しかったとより強く伝えたことがわかりました。これは、少額の報酬では「嘘をついた」という不協和を正当化できないため、「本当は楽しかったのかもしれない」と認知を修正することで不協和を解消しようとしたためだと考えられます。

日常生活における認知的不協和

認知的不協和は、私たちの日常生活の様々な場面で生じています。

選択後の後悔: 高価な商品を購入した後、「本当にこれで良かったのだろうか」と不安になる。
目標達成の困難: 目標を達成するために努力しているにもかかわらず、なかなか成果が出ない場合に、「この目標は自分には向いていないのかもしれない」と考える。
* 道徳的葛藤: 悪いと分かっていながら、つい嘘をついてしまう。

認知的不協和は、必ずしも悪いものではありません。不協和を解消しようとする過程で、自己理解が深まったり、より良い行動を選択できるようになったりすることもあります。

まとめ

認知的不協和は、人が矛盾する認知を抱えた際に感じる不快感であり、それを解消するために様々な方法を試みる心理現象です。この概念を理解することで、自分自身の行動や思考パターンをより深く理解し、より合理的な判断ができるようになるかもしれません。

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