誤差 (松本清張)

松本清張『誤差』

『誤差』は、松本清張が1960年に発表した短編小説です。都会から離れた温泉宿を舞台に、そこで起きた殺人事件の真相を巡る物語が展開されます。

あらすじ

物語は、夏の終わりが近づく頃、東海道から山間に入った場所にある鄙びた温泉宿「川田屋」に、都会的な美貌を持つ女性、安西澄子が訪れるところから始まります。澄子はあまり多くを語らず、どこか謎めいた雰囲気を漂わせていました。数日後、安西忠夫と名乗る長身の男性が宿に現れ、澄子と合流します。しかし、その数日後、忠夫が夕方宿を出た後、澄子が自室で死亡しているのが発見されます。

警察が捜査を開始すると、当初、嘱託医は死後推定時間を15時から16時頃と判断します。しかし、解剖の結果、病院長は死後推定時間を17時過ぎとしました。この二つの見解のずれ、つまり「誤差」が、事件の核心を突くことになります。警察は、病院長の推定を基に、忠夫が澄子を殺害後逃走したという見解を強めます。

捜査が進むにつれて、忠夫の本名は竹田宗一であることが判明します。山岡刑事は東京へ出張しますが、程なくして竹田の首吊り死体が遺書と共に発見され、事件は容疑者の自殺として一旦は幕を閉じます。しかし、物語は単なる自殺事件として終わらず、人間の認識の曖昧さや、事件の裏に隠された真実を追求する刑事の執念を描いていきます。

作品の特徴

この作品の魅力は、何と言ってもその緻密な構成と、人間の心理を巧みに描いた点にあります。一つの「誤差」が、事件の見方を大きく変え、読者を最後まで飽きさせません。また、松本清張らしい社会への批判的な視点も含まれており、単なるミステリーとしてだけでなく、人間ドラマとしても深く楽しめる作品となっています。

テレビドラマ化

『誤差』は、過去に二度テレビドラマ化されています。

1962年版: NHK「黒の組曲」枠で放送されました。月丘夢路が安西澄子役、夏川大二郎が竹田宗一役を演じました。当時のドラマ制作の雰囲気を知ることができる貴重な映像です。
2017年版: テレビ東京系で「松本清張没後25年特別企画」として放送されました。村上弘明が山岡刑事役、剛力彩芽が伊崎美里役を演じました。現代的な視点を取り入れ、新たな解釈が加えられた作品です。

著者について

松本清張は、昭和を代表する推理小説家であり、社会派ミステリーの創始者として知られています。人間の心理を深く掘り下げた作品が多く、社会に対する鋭い視点も持ち合わせています。彼の作品は、現代においても多くの読者に愛され続けています。

まとめ

『誤差』は、松本清張の短編小説の中でも特に評価の高い作品の一つです。人間の認識の曖昧さ、そして事件の真相を追い求める刑事の姿を通して、人間の深淵を描き出しています。ミステリーファンのみならず、多くの読者にオススメできる作品と言えるでしょう。

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