談林派

談林派：軽妙洒脱な俳諧の世界

延宝期（1673～1681年）を中心に、京都、大坂、江戸の三都で流行した俳諧の流派、それが談林派です。当時の俳壇において、大きな影響力を持つ流派として知られています。

談林という名称は、仏教の学問所を意味する言葉に由来しています。西山宗因という俳諧師を師と仰ぐ田代松意らによって「俳諧談林」と名付けられ、後に「談林俳諧」と呼ばれるようになりました。宗因流、宗因風といった呼称も用いられていました。

談林派の隆盛は、およそ10年間とされています。その間、それまで俳壇の中心を占めていた松永貞徳門下の貞門派に代わり、談林派が主流となりました。しかし、宗因の死後、その勢いは急速に衰え、短命に終わりました。

談林派と貞門派は、和歌の伝統や言葉の縁（言葉の響きや意味のつながり）を重視するという共通点があります。しかし、両派には大きな違いも存在しました。

貞門派が和歌の伝統を絶対視し、形式や作法を重んじたのに対し、談林派はより自由奔放な作風を特徴とします。道理をくつがえすような大胆な発想や、意外性のある表現を好んで用いました。笑いを交えた軽妙洒脱な作風は、貞門派とは対照的です。そのため「軽口」「無心所着（むしんしょちゃく）」といった言葉で特徴づけられます。「無心所着」とは、飾り気のない自然体な表現を意味します。

興味深いのは、多くの談林派の俳人が、貞門派で学んだ手法を談林派の作風の中に取り入れていた点です。有名な俳人、松尾芭蕉も、初期の「桃青」時代には談林派に属していました。芭蕉の俳諧観の形成に、談林派の影響が少なからずあったことは想像に難くありません。

談林派を代表する俳人としては、以下の人々が挙げられます。

井原西鶴：俳諧のみならず、小説家としても著名な人物です。
岡西惟中：宗因の弟子の一人で、談林派の中心的存在でした。
菅野谷高政：独自の作風で知られる俳人です。
高野幽山：宗因の弟子で、談林派の衰退後も活躍を続けました。
田代松意：談林派の創始者の一人として知られています。
田中常矩：談林派を代表する俳人の一人です。
富尾似船：個性的な作風を持つ俳人でした。
西山宗因：談林派の祖であり、その中心人物でした。
* 松尾芭蕉（桃青時代）：初期の代表作に談林派の影響が見られます。

談林派は、その短命な歴史にもかかわらず、俳諧史に大きな足跡を残しました。その軽妙洒脱な作風は、後の俳諧の発展にも影響を与えたと言えるでしょう。自由で創造的な表現を重んじた談林派の精神は、現代においても、俳句や創作活動のヒントを与えてくれるのではないでしょうか。

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