請求原因

民事訴訟とは、個人間や法人間の法的な紛争を解決するために、裁判所に対して裁判を求めて訴えを提起する手続きです。この訴えを起こすためには、法律に基づき、裁判所に「訴状」と呼ばれる書面を提出することが必要とされています（民事訴訟法第133条第1項）。

訴状には、法律で定められた、必ず記載しなければならない項目（必要的記載事項）が存在します。民事訴訟法第133条第2項には、その内容が列挙されており、第1号には訴えを起こす側（原告）と訴えられる側（被告）、および代理人がいる場合のその氏名や名称が、そして第2号には「請求の趣旨及び原因」が記載されなければならないと定められています。

この「請求の趣旨及び原因」のうち、「請求の原因」とは、原告が裁判所に訴える自身の権利や法律上の地位を主張する上で、その根拠となる具体的な事実のことを指します。例えば、「お金を返してほしい」「土地の所有権が自分にあることを確認してほしい」といった原告の「請求の趣旨」（裁判所に何を求めるか）が、どのような事実関係に基づいて生じているのかを明らかにするものです。

請求原因を明確に主張することは、民事訴訟における原告の「攻撃方法」の一つと位置づけられます。原告は、自身が主張する請求原因となる事実を具体的に示し、それを裏付ける証拠を提出することで、裁判官にその事実が存在することを認めさせ、自身の権利や法律上の地位に基づいた請求が正当であることを理解してもらおうとします。したがって、請求原因の主張と、それを証明するための証拠の申出は、訴訟を有利に進めるために極めて重要です。

具体的な請求原因の例をいくつか見てみましょう。

金銭の返還を求める訴えの場合：単に「お金を返せ」と主張するだけでは足りません。なぜ返還を求める権利があるのかを示す根拠となる事実が必要です。例えば、「令和〇年△月□日に、被告に対し、金100万円を貸し付けた」という事実が請求原因となります。この金銭消費貸借契約の成立という事実が、貸したお金を返すよう求める権利（貸金返還請求権）の発生根拠となるのです。

不動産の所有権確認を求める訴えの場合：その不動産の所有権が自分にあることを主張する根拠となる事実が必要です。例えば、「平成〇年△月□日に、被告から当該不動産を買い受けた」という不動産売買契約の成立という事実が請求原因となります。この売買によって所有権を取得したという事実が、所有権確認を求める権利の根拠となるのです。

* 婚姻の取消しを求める訴えの場合：なぜその婚姻を取り消すことができるのか、その法律上の根拠となる事実が必要です。例えば、再婚禁止期間中に婚姻届を提出した場合（民法第746条違反）であれば、「前婚の解消または取消しの日から再婚禁止期間内に婚姻届を提出した」という事実が請求原因となります。この事実が、婚姻を取り消すことができるという法律上の地位の根拠となります。

これらの例からわかるように、請求原因は、原告の請求する権利や法律関係がどのように発生したのか、その具体的なプロセスを示す事実の集まりです。これらの事実が明確に主張され、かつ証拠によって立証されることによって、裁判所は原告の請求を認めるかどうかの判断を行います。もし請求原因となる事実を正確に特定し、主張・立証できなければ、たとえ実際に権利を持っていたとしても、裁判所はその権利を認めて請求を認容することは難しくなります。このように、請求原因は民事訴訟の手続きにおいて、訴えの骨格を形成する非常に重要な概念と言えるでしょう。

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