谷崎重幸

谷崎 重幸（たにざき しげゆき）氏は、1958年4月17日生まれの日本の著名なラグビー指導者です。現在は新潟食料農業大学ラグビー部の監督を務めています。

経歴

三重県志摩市（旧志摩郡磯部町）の出身である谷崎氏は、高校時代からラグビーに取り組み始めました。三重県立志摩高等学校、そして法政大学で選手としてのキャリアを積みました。現役時代のポジションは、ゲームメイクを担うスタンドオフ（SO）や、最後尾からチームを支えるフルバック（FB）でした。

大学卒業後の1982年、谷崎氏は指導者としての道を歩み始め、ラグビー強豪校として知られる東福岡高校のラグビー部監督に就任しました。この東福岡高校での指導期間に、谷崎氏は数々の輝かしい実績を残します。全国高等学校ラグビーフットボール大会、通称「花園」ではチームを4度の優勝に導きました。特に、2009年度と2010年度には、高校選抜大会、国民体育大会、そして花園という高校ラグビーの主要タイトル全てを制覇し、2年連続での「高校ラグビー三冠」という歴史的な偉業を達成しました。監督としての手腕を発揮する傍ら、谷崎氏は社会科の教員としても教壇に立ち、生徒たちの教育にも深く関わっていました。

2013年には母校である法政大学の監督に就任し、4年間にわたりチームの強化に尽力しました。この指導者としての功績が認められ、2014年には文部科学大臣優秀教員表彰を受賞しています。その後、2020年からは新潟食料農業大学ラグビー部の監督として、再び新たなチームの指揮を執っています。

指導哲学の変遷

谷崎氏の指導哲学は、ある個人的な経験を経て大きな転換を遂げました。東福岡高校の監督時代、奥様を38歳という若さで病で亡くされたことをきっかけに、2001年から2003年にかけて一時的に休職し、三人の子供たちと共にラグビー大国であるニュージーランドへ渡るという期間がありました。

このニュージーランド滞在中に、谷崎氏は現地のラグビー指導の在り方に強い感銘を受けます。そこでは、学年や実力に応じて細かくチームが編成され、同等レベルのチーム同士が対戦する機会が多く設けられていました。これは、全ての選手が試合に出場し、勝利を目指せるチャンスを与えるという考え方に基づいています。そして何より、選手一人ひとりの個性やプレーを否定せず、彼らが心からラグビーを楽しむことを最優先する指導方針が徹底されており、選手たちは皆、生き生きとグラウンドで躍動していました。

このニュージーランドで目にした光景と経験が、谷崎氏のそれまでの指導観に180度近い転換をもたらします。帰国後、谷崎氏は従来の、ある種厳格で型にはめるような指導スタイルから脱却し、選手主体のラグビーを追求することを強く意識するようになりました。練習中や試合中に監督からの細かな指示を極力減らし、選手自身が状況を判断し、主体的に考え、行動することを促すようになったのです。全ての部員がラグビーの面白さを感じ、能動的に取り組める環境を創り出すことを、最も大切な指導信条とするようになりました。

谷崎氏の指導を受けた選手の一人である上田竜太郎氏（元NTTコミュニケーションズシャイニングアークス）は、当時の指導について「かなり自由にやらせてもらった」と振り返っています。また、監督から常に「楽しもう」「笑顔でいこう」といったポジティブな言葉をかけられ、チーム全体が非常に前向きな気持ちでプレーに臨むことができた、と語っています。これは、谷崎氏が目指す「選手が主役であり、ラグビーを心から楽しむこと」を重視する指導が、実際に選手たちに良い影響を与えていたことを示すエピソードと言えるでしょう。

東福岡高校での輝かしい実績だけでなく、自身の経験を通じて指導哲学を深化させ、選手一人ひとりがラグビーの喜びを感じながら成長できる環境づくりに情熱を注ぐ谷崎氏は、日本のラグビー界において、教育者としても指導者としても大きな足跡を残しています。

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