谷本富

谷本富：変革期の教育を牽引した先駆者

谷本富（1867年 - 1946年）は、明治時代から昭和初期にかけての激動の時代に、日本の教育界に多大な影響を与えた教育学者です。彼は、時代の変化に合わせ、多様な教育思潮を積極的に取り入れ、日本の教育の発展に貢献しました。

生涯と業績

讃岐国高松（現在の香川県高松市）に生まれた谷本は、松山公立病院附属医学所、同人社を経て帝国大学文科大学選科へと進み、哲学と教育学を修めました。特に、御雇教師ハウスクネヒトから学んだヘルバルト教育学は、彼の初期の教育思想形成に大きな影響を与えました。

1890年には山口高等中学校教授、1894年には高等師範学校教授に就任し、教育者としてのキャリアをスタートさせました。高等師範学校時代には、著書『将来の教育学』を発表し、早くも独自の教育理論を展開しました。

1900年からの3年間、ヨーロッパに留学し、帰国後には京都帝国大学理工科大学講師、後に文科大学教授として教鞭を執りました。留学の成果は、1906年刊の『新教育学講義』に結実し、ヘルバルト主義から新教育への転換を鮮明にしました。彼は、新設された教育学教授法講座を担当し、後進の育成にも力を注ぎました。

澤柳事件とその後

1912年、谷本は大阪毎日新聞上で乃木希典の殉死を批判したことがきっかけとなり、世論からの激しい非難を浴びます。翌年には、兼任していた大谷大学・神戸高等商業学校を辞任せざるを得なくなりました。さらに、京都帝国大学総長澤柳政太郎による辞表提出強要（澤柳事件）により、大学を追われることとなりました。

大学を去った後、谷本は著述家、論客として活動を続け、龍谷大学講師、大阪毎日新聞社顧問なども務めました。

教育思想の変遷

谷本の教育思想は、時代とともに大きく変化しました。初期にはヘルバルト主義教育を紹介しましたが、その後、国家主義教育、新教育、実験主義教育など、様々な教育思潮を提唱しました。この変遷は、彼の柔軟な思考と、常に新しいものを取り入れようとする姿勢を示しています。

ヘルバルト主義教育: ドイツの哲学者・教育学者ヨハン・フリードリヒ・ヘルバルトの思想に基づいた教育。知識の系統的な伝達と、道徳的な人格形成を重視します。
国家主義教育: 国家の発展を目的とした教育。愛国心や忠誠心を育むことを重視します。
新教育: 従来の詰め込み教育を批判し、子どもの個性や創造性を尊重する教育。体験学習や自主的な活動を重視します。
実験主義教育: アメリカの哲学者・教育学者ジョン・デューイの思想に基づいた教育。経験を通して学ぶことを重視します。

著作と影響

谷本は、数多くの著書を通じて、自身の教育思想を広く社会に伝えました。『将来の教育学』、『新教育学講義』など、彼の著作は、当時の教育界に大きな影響を与えました。また、彼は教育雑誌への寄稿や講演活動を通じて、教育に関する議論を活発化させました。

評価

谷本富は、日本の教育界に多大な足跡を残した教育学者として評価されています。彼の柔軟な思考と、常に新しいものを取り入れようとする姿勢は、現代の教育にも示唆を与えてくれます。しかし、乃木希典の殉死を批判したことによる辞職など、彼のキャリアは必ずしも順風満帆ではありませんでした。それでも、彼は自身の信念を貫き、教育の発展に貢献し続けたのです。

谷本富の生涯は、日本の教育が大きく変化した時代を象徴しています。彼の教育思想は、現代の教育にも通じる普遍的な価値を持っており、今後も研究され、語り継がれていくことでしょう。

主な著作

『将来の教育学』(1898年)
『新教育学講義』(1906年)
* 『系統的新教育学綱要』(1907年)

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