谷脇理史

谷脇理史：近世文学研究の巨匠

谷脇理史(たにわきまさちか、1939年11月24日-2009年8月28日)は、日本の近世文学研究者として、特に井原西鶴研究において顕著な功績を残しました。群馬県館林市に生まれ、早稲田大学第一文学部国文学専修を卒業後、同大学院博士課程単位取得満期退学を経て、跡見学園女子大学、筑波大学、そして早稲田大学と、日本の名門大学で教鞭を執りました。1983年には、「西鶴研究序説」で早稲田大学より文学博士号を取得しています。

西鶴研究への貢献

谷脇氏の西鶴研究は、その独創性と深さで知られています。従来の研究に捉われず、西鶴作品を草稿段階から丁寧に検証することで、作品成立過程における様々な謎を解き明かそうと試みました。これは、当時の出版規制や社会情勢を踏まえた上で、西鶴が作品に織り込んだ隠された意図を明らかにしようという、極めて独創的なアプローチでした。また、作品における「カムフラージュ」の側面にも着目し、西鶴の表現技法を多角的に分析しました。こうした谷脇氏の研究は、後の西鶴研究に大きな影響を与え、「谷脇西鶴」と称されるほど高く評価されています。単なる文献研究にとどまらず、西鶴作品が生まれた当時の社会状況、出版事情、さらには西鶴自身の生き様といった要素を深く考察することで、作品をより立体的に理解するための新しい視点を提示したことが、その功績の大きさを示しています。

多岐にわたる研究活動

西鶴研究に加え、谷脇氏は近世文芸全般にわたる幅広い研究活動を行いました。江戸時代の文化や社会、人々の生活を多角的に考察し、その成果を数多くの著書や論文に結実させています。その著作には、『西鶴研究序説』、『西鶴研究論攷』、『元禄文化西鶴の世界』など、西鶴研究の代表作をはじめ、『笑いのこころ　古典の楽しみ』、『江戸のこころ　浮世と人と文学と』など、近世文学の魅力を一般読者にも分かりやすく解説した作品も含まれます。これらは、専門家だけでなく、広く一般の人々にも近世文学への理解を深めるきっかけを与えたと言えるでしょう。さらに、編著や共編著、校訂にも携わり、近世文学研究の発展に大きく貢献しました。

人となり

谷脇氏の知人であった中野三敏氏の回想によると、谷脇氏は豪快な酒豪であり、その人柄は多くの学生や研究者から慕われていました。中野氏の言葉からは、谷脇氏が優れた研究者であると同時に、温かく親しみやすい人物であったことが伝わってきます。その人となりは、多くの弟子や友人たちに深い影響を与え、彼らが近世文学研究を志す上で大きな励みとなったはずです。しかしながら、その豪快な性格が、早すぎる死を招いた可能性も示唆されており、惜しまれる限りです。

まとめ

谷脇理史氏は、その類まれな研究能力と熱意で、近世文学研究、特に西鶴研究に多大な貢献をしました。その業績は、現在もなお高く評価されており、日本の近世文学研究史において重要な位置を占めています。彼の残した著作は、後世の研究者にとって貴重な財産であり、近世文学を学ぶ者にとって必読の書と言えるでしょう。谷脇氏の研究姿勢や人となりを知ることは、現代の研究者にとっても多くの示唆を与えてくれるはずです。彼の早すぎる死は、日本の学界にとって大きな損失でしたが、その功績は永遠に語り継がれていくでしょう。

もう一度検索