豊島横尾館

豊島横尾館は、美術家・横尾忠則の作品世界を体験できる美術館です。2013年の瀬戸内国際芸術祭に合わせて、永山祐子の設計により、豊島の家浦地区にあった古い民家3軒を改修・増築して建設されました。この美術館は、横尾忠則の生涯のテーマである「生と死」を、建築と展示作品を通して一体的に表現することを目指しています。

特徴的なのは、日常空間と非日常空間が隣り合う敷地を生かした空間構成です。永山祐子は、建築を絵画的な二次元表現に近づけることを意図し、赤い色ガラス、黒ガラス、そしてガラスの反射を利用したスクリーンを用いて、空間の中に二次元的なシーンを創出しています。赤いガラスは、「生と死」「日常と非日常」の境界を象徴し、見る角度によって風景をモノクロームに変え、庭に配置された赤い石を消す効果をもたらします。この仕掛けによって、横尾作品のコラージュのように、作品とスクリーンが創り出す風景が三次元空間で一体となり、太陽光の変化や人の動きによって常に変化する、二度と同じではないシーンを生み出します。この「常に流れ循環し続けるシーンの集合体」が、横尾作品の根底にあるテーマ「生と死」を表現しているのです。

展示空間は、既存の建物の配置を生かし、「母屋」「倉」「納屋」の3つで構成されています。「母屋」には、横尾の代表作「原始宇宙」や「宇宙的狂気愛」などの大作絵画が展示されています。また、日本庭園や円塔型の建築にはインスタレーション作品が展開されており、母屋のガラス張りの床下には川が流れるというユニークな構造です。さらに、作品化はトイレにまで及んでいます。庭園には赤い石庭と鮮やかなタイルが敷き詰められた川があり、敷地内には高さ14メートルの円筒形の塔が設置されています。横尾は、塔を男性原理、川を女性原理に見立て、川を三途の川、ナイル川、そして命を包む羊水として捉えていると説明しています。開館時には川に鯉が放流され、その後の産卵で数が増えた様子を横尾は「死から生が芽生えた」と表現しました。

円筒内部はインスタレーション空間となっており、横尾が収集した約9000枚の滝のポストカードが壁一面に貼られています。床と天井は鏡張りで、視覚的な奥行きを拡張しています。この豊島横尾館は、建築家である永山裕子の卓越した設計と、横尾忠則の芸術的な感性が融合した、他に類を見ない美術館体験を提供しています。

運営は公益財団法人 福武財団が行っており、開館時間は季節によって異なります。3月から9月は10:00から17:00まで、10月から2月は10:00から16:00までです。休館日は、3月から11月は火曜日、12月から2月は火曜日から木曜日です。ただし、祝日の場合は開館し、翌日が休館となります。月曜日が祝日の場合は、火曜日が開館し、翌水曜日が休館となります。入館料は500円ですが、瀬戸内国際芸術祭の会期中は芸術祭パスポート提示で無料となります。

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