豊川市コミュニティバス

愛知県豊川市が運営する豊川市コミュニティバスは、市民の生活を支える公共交通機関の一つです。市の中心部と各地域を結ぶ「基幹路線」と、それぞれの地域内をきめ細やかに巡回する「地域路線」の二つの体系で構成されており、複数の系統によって豊川市全域の公共交通ネットワークを形成しています。

現在の体系に至るまで

豊川市コミュニティバスが現在の形になったのは、2011年11月1日の市内バス路線再編以降のことです。それ以前は、旧宝飯郡音羽町域で運行されていたコミュニティバスのみが「豊川市コミュニティバス」と呼ばれていました。この再編を機に、豊川市全域を対象とする新しいコミュニティバス体系が整備されました。

この広範なネットワークが生まれる背景には、市内の公共交通が抱えていた課題がありました。かつて豊川市内では、豊鉄バスや名鉄バスが一部地域で運行していたほか、地区独自の送迎バスや乗合タクシーなどが存在していました。しかし、路線網は限られており、特に1980年代後半の路線整理により、バスが利用できない地域が増加していました。また、旧音羽町、一宮町、御津町といった旧郡部の地域で運行されていたバスは、地域内での移動に特化しており、市の中心部にある豊川駅、国府駅、市役所などが集まる諏訪地区へのアクセスには、煩雑な乗り換えが必要でした。これは自家用車を持たない方にとって、大きな負担となっていました。

こうした状況を改善し、市民の公共交通の利便性向上や、市中心部へのアクセス改善を図るため、豊川駅、国府駅、諏訪地区を交通の要衝（結節点）と位置づけ、これらを起点とした効率的な交通ネットワークを構築する計画が推進されました。この計画に基づき、全市的な豊川市コミュニティバスが誕生したのです。コミュニティバスの運行開始に伴い、それまで豊川市内を運行していた一部の既存路線、例えば豊川駅と国府駅を結んでいた豊鉄バス豊川北部線や、御津地区を経由していた名鉄バス西浦豊橋線などは廃止または見直しの対象となりました。

主な沿革

市内の公共交通に関する主な出来事としては、1985年の名鉄バス萩線の廃止が挙げられます。これを契機に、地域の移動手段確保の必要性が高まり、2001年 6月1日には音羽町コミュニティバスが運行を開始しました。2008年に音羽町が豊川市に編入された後も、この路線は「豊川市コミュニティバス」として引き継がれました。そして、全市的な交通網再編に向けた準備が進められ、2011年10月には試験運行が行われ、同年11月1日に現在の豊川市コミュニティバスが市内全域で本格運行を開始しました。その後も、2012年 10月1日には御油地区で地域路線「ごゆりんバス」が運行を開始するなど、路線の拡充や変更が行われています。将来的には、一部路線で交通系ICカード「manaca」やスマートフォン決済「PayPay」の導入が予定されており、利便性の向上が見込まれます。

運行体制

路線の運行は、豊川国府線と一宮線を豊鉄バス株式会社が、その他の全路線を豊鉄タクシー株式会社が担当しています。車両は路線の特性に合わせており、豊川国府線には小型バス、一宮線には中・大型バス、その他の路線ではジャンボタクシーが使用されています。

運行日については、基幹路線と音羽地区・御油地区の地域路線は毎日運行されています。一方、一宮地区・御津地区の地域路線は特定の曜日のみの運行となります。なお、毎年1月1日から1月3日までの期間は、全路線が運休となります。

運賃について

運賃体系は、路線種別によって異なります。基幹路線ではゾーン制が採用されており、同一ゾーン内の利用は一乗車200円、ゾーンを跨いで利用する場合は300円となります（ゾーンの境界は豊川体育館前バス停）。乗り継ぎ割引制度もあり、乗継券を利用することで、乗り継ぎ後の同一ゾーン内での移動は無料、ゾーンを跨いでの移動は100円で利用できます。

地域路線は原則として一乗車100円ですが、音羽地区と御油地区の地域路線は一乗車200円です。また、豊川市コミュニティバスの運行開始に合わせて、豊鉄バスの豊川市内区間にもゾーン制運賃が導入されましたが、コミュニティバスとの乗り継ぎ割引は適用されません。

路線の概要

基幹路線：市の主要な地域や施設を結び、交通結節点である豊川駅、国府駅、諏訪地区を中心とする骨格となる路線群です。豊川国府線、千両三上線、ゆうあいの里小坂井線、一宮線、音羽線、御津線があります。例えば、ゆうあいの里小坂井線は旧宝飯郡小坂井町域を通る唯一の路線です。一部の路線は豊鉄バスの旧路線や、かつての名鉄バスのルートを引き継いで運行されています。

地域路線：各地区内の移動をサポートし、基幹路線や主要施設への接続を担います。一宮地区（本宮線のんほい号）、音羽地区（つつじバス）、御津地区（ハートフル号）、御油地区（ごゆりんバス）があり、それぞれ運行曜日やルートが異なります。音羽地区のつつじバスの一部区間ではフリー乗降が可能です。

前身のコミュニティバス

現在の豊川市コミュニティバスが全市展開する前、2011年11月1日以前は、旧宝飯郡音羽町内で運行されていたバスを指していました。この音羽町コミュニティバスは、1985年の名鉄バス萩線廃止により、地域からバス路線が失われたことへの対応として、2001年 6月1日に運行を開始したものです。高齢者など、車を持たない方々の移動手段を確保することを目的としていました。2008年の市町合併後、名称を「豊川市コミュニティバス」と改めて運行が続けられましたが、現在の音羽線やつつじバスに発展的に継承されています。旧バスが日曜日や年末年始に運休していたのに対し、現在の体系では基幹路線や一部地域路線で毎日運行となり、利便性が向上しています。

豊川市コミュニティバスは、地域の特性や住民のニーズに合わせて進化を続けながら、市民の日常生活における重要な移動手段としての役割を担っています。

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