豊橋市歌

愛知県豊橋市には、市の象徴として「豊橋市歌」が制定されています。この市歌には、これまでに二つの異なる楽曲が存在しており、現在は二代目の市歌が公式に用いられています。

最初の市歌は1932年（昭和7年）に制定されました。これは、同年に下地町をはじめとする周辺町村を編入合併し、市域を拡大したことを記念する事業の一環として制作されたものです。歌詞は市民から広く公募され、同年10月1日に開催された記念式典で初めて演奏されました。

この初代市歌の歌詞は全4番あり、楽譜と共に当時の市勢要覧や、1937年（昭和12年）に刊行された『最新音楽参考資料』、さらには1997年（平成9年）に豊橋市図書館が作成した『豊橋の歌』といった複数の資料に記録として残されています。しかし、これらのどの資料にも作詞者や作曲者の名前が一切記載されておらず、残念ながら今日に至るまでその身元は不明のままです。初代市歌は、後述する二代目市歌が制定された1956年（昭和31年）にその役目を終え、廃止されました。愛知県において、戦前と戦後で市歌を新たな楽曲に変更した事例としては、豊橋市のほかに半田市も挙げられます。

現在親しまれている二代目市歌は、1956年（昭和31年）が豊橋市の市制50周年にあたることを記念して制作されました。この市歌の歌詞も一般から広く募集され、集まった298篇の応募作の中から採用された一篇をもとに、豊橋市出身の著名な詩人である丸山薫が補作を手掛けています。

作曲は、国民的な名曲を数多く手掛けたことで知られる古関裕而が担当しました。古関氏の妻である内山金子氏が豊橋市出身であったことが、市歌の作曲を依頼する縁となったと考えられています。古関裕而は、この市歌制定に先立つこと4年前の1952年（昭和27年）にも、豊橋観光協会が選定した「豊橋観光音頭」や「夢の豊橋」といった豊橋に関連する楽曲の作曲を手掛けており、豊橋市とは以前から深い関わりがありました。一方、市歌の作詞を担当した辰己利郎については、補作の丸山薫や作曲の古関裕而ほど豊橋市の公式情報などで詳しく紹介されることは少ないようです。しかし、彼は1947年（昭和22年）に制定された大阪府枚方市の市歌や、奈良県斑鳩町の町歌など、他の自治体の公式歌の作詞も手掛けていたことが確認されています。

近年、豊橋市は古関裕而の出身地である福島市と連携し、NHKの連続テレビ小説（朝ドラ）の誘致活動を積極的に展開しました。2017年（平成29年）からは、この活動の一環として豊橋市歌のCD化も行われました。この誘致活動は成功し、2020年（令和2年）3月30日から古関裕而をモデルにしたドラマ『エール』が放送開始されました。これに伴い、豊橋市中央図書館では記念事業として「昭和の大作曲家 古関裕而の妻 内山金子とその時代展」と題した企画展が開催されました。ここでは、豊橋市歌をはじめ、「曙幼稚園歌」、「豊橋観光音頭」、「夢の豊橋」といった、古関裕而が豊橋に関連して手掛けた楽曲に関する貴重な資料が展示され、多くの来場者の関心を集めました。

なお、豊橋市では、市制70周年を迎えた1976年（昭和51年）に、これまでの市歌とは別に「豊橋 明日へのマーチ」（作曲：馬飼野俊一）という記念歌も制作されています。

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